正しい発想、マカヒキがえるの勝利 「競馬巴投げ!第157回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

日馬富士と貴ノ岩も「ひょっとして」

[写真3]シュヴァルグラン 【写真:乗峯栄一】

 いまのところ、まったく詳細は分からないが、日馬富士と貴ノ岩の暴行事件にも、この「犯人の言葉遣いの間違い」が絡んでるんじゃないだろうか。そんなことはないか。そんなことはないかもしれないが、ワイドショーの出演者なんかには、「ひょっとして」の一つとして、頭の中に置いておいてもらいたい。

 モンゴル人力士の宴会は日本語とモンゴル語のチャンポンで行われていたという。

 万が一だけど、白鵬が何か訓辞のようなことを言っていたときに、貴ノ岩の携帯が鳴って「もしもし」と話し始めたとする。その様子を見ていた日馬富士が「お前、何だ」と貴ノ岩を指差す。そのとき貴ノ岩が「迷惑かけました」と謝るのを、間違えて「迷惑かけたかったです」と言ったとしたら、どうだ。

「迷惑かけたかっただと?」と日馬富士が怒って「お前、横綱の白鵬関に迷惑かけたかったのか。ケンカ売ってんのか」となったということはないんだろうか?

 日本語には、何年住んでいても、ちょっと分かりにくい微妙なニュアンスというのがあるから、ほんの少しだけ心配している。

セーラー服はいきなりムチは使わん

[写真4]マカヒキ 【写真:乗峯栄一】

 競馬場でも「お客さまにご案内いたします。発想委員が正しい発想でないと判断した時は発想のやり直しを命じることがあります」というようなアナウンスがよくある。

 これは“発走”だ。“発想”じゃないと、ちょっと考えれば分かるんだけど、慣れない人間、特に外国人には「へえ、競馬には正しい発想というのがあるんだ。正しい発想をしなきゃいけないんだ。それで、その各人の発想が正しいかどうかを判断する“発想委員”ていう人もいるんだ」とか、ひょっとしたらそんなことを考える人間もいるかも分からないじゃないか。

「ようし、みんなゲート入ったか、いまから発想だ。今日は鬼の乗峯が発想委員だ。オリャ甘くねえぞ。正しい発想でないときはすぐに発想のやり直しを命じるからな。いいか」と発想委員はアゴに手を当てる。

「第一問“セーラー服”! あ、3番騎手の中島、“ムチ”とか発想したな。正しくなーい。飛躍し過ぎだ。セーラー服はいきなりムチは使わん。“定期入れ”とか“白下着”とか、着実なところから発想しろ。発想やりなおーし!」と全馬をゲートから出させる。

 で、ふたたびゲート入りさせると、「よーし、第2問だ。“アワビー”。あ、8番騎手の井上、寿司ネタとか言ったな、貧困な発想だ、お前らのそんな甘い発想はこの乗峯ゲートでは通用せん。最低でも“湿り気”とか“グニュグニュ”とかそれぐらいの現実即応の発想をしろ、またしても発想やりなおーし!」

 きっと正しい発想は正しい発走以上に厳しい選択になる。

 まあ、そんなことを横綱審議委員会で言っても無視されるだけだろうな。彼らは「正しい発想」について考えたことがないからな。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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