観客数最少の京都ハンナリーズを救え! Bリーグが進めるクラブ支援策「MOP」

大島和人

Bリーグが目指す「痒いところに手が届く」フォロー

今秋Bリーグは京都を支援する、ある取り組みを行った 【(C)B.LEAGUE】

 Bリーグの葦原一正事務局長はオリックス・バファローズで5年、横浜DeNAベイスターズで2年半の勤務経験を持つスポーツビジネスの専門家だ。彼はプロ野球界の「中の人」だったころに、こんなことを考えていたという。

「データが溜まって分析をしたいけれど、お客様の対応に追われたりして時間がないんです。そういう分析をリーグがやってくれればラクじゃないですか? 自分がリーグにもし行くことがあれば、そうしたいなと思っていました」

 彼の願いはバスケットボール界で実現した。日本のプロ野球は全体の経営規模こそ大きいが、リーグ組織が各球団の経営をサポートする体制がなかった。しかしBリーグは各クラブの経営に関して、葦原の言葉を借りれば「痒いところに手が届く」フォローを目指している。

 NBAには「TMBO(チームマーケティング&ビジネスオペレーションズ)」というクラブの経営支援部隊がある。大河正明チェアマンと葦原はBリーグが発足した直後の16年1月にNBAのオフィスを訪問し、「TMBO」の調査を行った。

 Bリーグも「モップ(MOP/マネジメント&オペレーションプラットフォーム)」というユニットが活動を行っている。「モップ」の名称にはちょっとしたユーモアも込められているという。葦原は明かす。「バスケってコートにモップをかけるじゃないですか。経営課題をきれいにしようと。モッパーになろうと……。それで『モップ』です」

重要なのはクラブ間の横のつながり

Bリーグの葦原事務局長は「困ったときに相談してもらえるような組織」とモップの定義を説明する 【スポーツナビ】

 Bリーグは千葉ジェッツの社長として実績を出した島田慎二バイスチェアマンが、「島田塾」の活動を通して各クラブの経営者層にアドバイスを行っている。モップはチケット、スポンサーのセールスなど個別の課題にも対応し、各クラブの担当者などと連携している。

 リーグとクラブは得てして上下関係になりやすいが、かつて球団サイドいた葦原は上意下達を嫌う心理も分かっている。彼は「困ったときに相談してもらえるような組織。大切なのはリーグが黒子であること」とモップを定義する。

 またリーグが特定のクラブに肩入れすることは許されない。葦原はこう釘を刺す。「公正であることがリーグの一番大事なことで、何においても等距離です。強制的に全チームを指導します、アドバイスをしますとは言っていません。言ったのは『要望があれば分析してフィードバックします』ということです」

 その上で葦原は横のつながりの重要性を強調し、クラブ経営の肝をこう説く。「クラブ同士が情報をシェアする文化が大事です。そのときにお互いがデータを持っていると議論もしやすい。どこかでいい数字があがったときに『どうやっているんだろう?』と担当が担当に電話して聞ける。パ・リーグはこの10年で大きく数字を伸ばしましたけれど、本質はそういう横の連携だと思うんです」

 プロ野球界ではパ・リーグが経営的にも台頭しており「セ・リーグ優位」の構図に変化が見える。葦原は出身者として理由をこう分析する。「PLM(パシフィックリーグマーケティング株式会社)が2007年に立ち上がりました。チケットやスポンサーの担当者会議を頻繁にやって、会議して飲みにいく。これを繰り返したんです。プラットフォーム、情報交換のしやすい環境を整えることが本質だと思っています」

 そのような「プラットフォーム」を作ることでパ・リーグが活性化した。葦原は続ける。「そうすると人材流動が起きるんですね。スポーツ界の一番の問題はタコつぼになることです。協会とリーグがけんかする、リーグとチームがけんかするという団体がほとんどじゃないですか? バスケはそうならないように権益をまとめているんですけれど、本当に一体にならないといけないのは気持ちや仕組みのところです。人も動かさないとまた『協会はうるさい』『チームは分かってくれない』となってしまう」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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