B1昇格へ、奈良が行ったクラブ改革 元代表HCを招聘「選手を成長させていく」

カワサキマサシ

奈良に十分な可能性を感じている

今季から奈良のHCに、かつて男子代表を率いたジェリコ・パブリセビッチ氏が就任した 【写真:カワサキマサシ】

「成功させる自信はある」

 バンビシャス奈良の新ヘッドコーチ(HC)は、虚勢を張るでも大風呂敷を広げた様子もなく静かに、そしてはっきりと言い切った。

 今季から新たに奈良の指揮を執るのは、ジェリコ・パブリセビッチ。クロアチア出身でヨーロッパの各クラブを指導し、2003〜06年には男子日本代表のHCを務めた。10年以降は島根スサノオマジック、和歌山トライアンズ、千葉ジェッツと日本のクラブチームを率い、13−14シーズンには和歌山をNBL準優勝に導いた。それほどの実績を持つHCが、なぜB2の奈良を選んだのか。ジェリコHCの答えは明確だ。

「カテゴリーは関係ありません。今までに数々のチームで指揮を執ってきましたが、そのどれもが私にとってはチャレンジでした。当時、bjリーグ参入1年目だった島根もそう。あのときは、1年でいいチームが作れました。奈良は創立5年目と歴史は浅いですが、クラブは毎年向上している。私は奈良に十分な可能性を感じています」

着実に成長していくことが目標

 クラブ創設以来、奈良は年齢の若いHCにチームの指揮を委ねてきた。無論そのことが原因のすべてではないが、bj時代からチーム成績は下位に沈んでいる。5年目を迎えるにあたって元代表HCを招聘(しょうへい)したことは、クラブ改革への意思の表れだ。奈良の神田悠輝ゼネラルマネージャー(GM)は、ジェリコHCを招いた理由をこう語る。

「当初から、外国人HCに的を絞っていました。そのなかで日本の文化、バスケットボールを理解している人が理想。そう考えると、真っ先にジェリコさんの名前が頭に浮かびました。ジェリコさんがどういう指導をするのかは分かっています。1年でも早く、チームをB1に昇格させてほしい」

「1年でも早く」は、GMとしての偽らざる本音だ。しかし当のジェリコHCは「組織を作ることは、簡単ではありません。ファンの皆さんも、マスコミの皆さんも、長い目でお付き合いいただきたい」とだけ話し、B1への昇格時期を明言しない。その言葉の真意を尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「われわれは、例えばアルバルク東京のようなビッグクラブではありません。予算も限られている。ビッグクラブで好きな選手を取ってくることができる状況であれば、すぐにB1に行くと目標を掲げられるかもしれませんが、奈良はそうではない。若い選手もいますし、まずやらなければならないのは、選手を成長させていくこと。1日1日、プロセスを大事にしながら、着実に成長していくことが目標です。

 今季の奈良は、ゼロからのスタート。シーズンを戦いながら自分たちがしっかりと成長していくことで、ほかの強いチームとも必ず対等に戦えると信じています」

育成手腕に定評がある東欧の知将

ジェリコHCは「着実に成長していくことが目標」と語る 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 チームは決して、一足飛びには成長を果たせない。かつてはシカゴ・ブルズの3連覇に貢献したトニー・クーコッチらをNBAに送り出し、選手育成の手腕にも定評がある東欧の知将は、そのことを身をもって熟知している。

「チームを作っていくには、正しいプロセスを経ることが最も大事。一気にジャンプアップしても、そのあとはすぐに落ちていくだけです。そうではなく、少しずつ積み重ねていかないといけない。プロセスに時間をかけることができるチームこそが、将来的に強くなっていくのです。その点も、私が奈良に魅力を感じているところです」

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著者プロフィール

大阪府大阪市出身。1990年代から関西で出版社の編集部員と並行してフリーライターとして活動し、現在に至る。現在は関西のスポーツを中心に、取材・執筆活動を行う。

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