観客数最少の京都ハンナリーズを救え! Bリーグが進めるクラブ支援策「MOP」
京都に欠けていた「数字の意識」
京都は昨季の観客数がB1最下位。その背景にはファン層に特有な特徴があった 【(C)B.LEAGUE】
京都の高田典彦社長はこう明かす。「京都は集客が課題です。ブランディングも含めたマーケティング、集客といった営業面を強化したかった。そのためにはこの道のプロの力が必要で、今いるフロントスタッフの力を最大限に生かすために、安田さんに力を貸してほしかった」
京都は昨季の観客数が1試合平均1944人で、B1の最下位だった。高田社長はクラブの現状を「集客が課題であるのはbjリーグ時代からなんです。京都も昨シーズン前年比で149%の集客は達成していますが、Bリーグ全体からいったら明らかに下の方」と説明する。
背景にはこのようなファン層の特徴がある。高田社長は言う。「ファンクラブも30から40代の男性、女性が多いんです。それは他の地区にはない特色です。あと若い世代を含めたライト層に思ったほど広がっていない」
安田のミッションは集客面のテコ入れだ。彼はフロント入りして2週間の段階で、クラブの課題をこう整理していた。「大きいものは2つあります。京都だけではないと思いますが、まず数字の意識です。集客はある意味で選挙と一緒なのですが、『ここにお願いすれば何人くらい来てくれる』といった数字の意識が薄い。もう一つはコミュニケーション。ファン、行政、提携、スポンサーといったいろいろな形で接点があるのに関係性が深まっていません」
「数字の意識」とはこういうことだ。安田は説明する。「例えば優待デーで1000人にお声掛けして100人来た。この実績から同じようなことを2000人にすると200人程だろうとおおよそ予測できる。そういった数字を積み重ねていくと集客目標になるというのがチケッティングの肝だと思っています。ファンクラブ、年間シートのような『基礎票』も増やしていくのですが、足りない部分をどうやっていくのかという意識がない。結果は出ても何が良かったのか、何が悪かったのかという検証ができていない。いろいろとやっていても引き継がれていない。だから施策が単発で、ふたを開けてみないと分からないということになる」
バスケの伝統を持つ京都のポテンシャル
マスコットのはんニャリンやチアリーダーはファンからも絶大な人気を博す 【(C)B.LEAGUE】
衛星都市型の成功例は栃木ブレックスや千葉ジェッツだ。こういったクラブはファンクラブ組織の充実といった「地上戦」を通して、ファンと密なコミュニケーションを取っている。メディアとの関わりも工夫が必要だ。京都も同様にUHF局や地方紙はあるが、どうしても住民の目は大阪や東京に向く。他府県のメディアは何か「理由」がないと取材に来ない。
安田は栃木と千葉の成功をこう分析する。「その2クラブはメディアをうまく活用して、ネタを提供している。例えば、新聞やテレビに取りあげてもらうようなコミュニケーションを取って、『こんな記事が出ました』『テレビに出ます』とファンに発信する」
現状を考えると遠い話だが、安田は京都を「サッカーのバルセロナのようなクラブにしたい」と夢を口にする。これは全く根拠のない話ではなく、バルセロナと京都はいずれも人口が150万人程度だ。加えてどちらも世界的な観光都市で、歴史とアイデンティティーを大切にする街という共通点を持っている。
彼は「京都は非常に可能性がある」と力説する。京都はクラブと県協会の関係が良く、経営基盤もある。また京都は日本で初めて協会ができたというバスケの伝統を持つ土地で、大河チェアマンは京都出身。日本バスケットボール協会副会長の兒玉幸長は、京都府バスケットボール協会の会長でもある。
加えて西地区の優勝争いに絡むチーム力があり、アリーナの雰囲気も悪くない。チアリーダーやマスコットの「はんニャリン」といったプラスアルファもある。ただしそれが「つながって」いない。
安田はこう問題を見る。「一つ一つのやっていることは悪くないですし、洗練されている企画もあります。ただ中に入ってみるとそれが連動していない。本当は1→2→3で提供しなければいけないのに、3→2→1で提供していたりする」
京都支援の先にあるリーグの発展
安田が京都で行う活動は、リーグ発展にとっても重要な取り組みとなっていく 【写真提供:京都ハンナリーズ】
彼は楽天で当時の島田亨社長、池田敦司副社長からマーケティングを学んだ。安田は振り返る。「楽天のときに会員組織と、最後はチケットもやりましたが、その経験が後に生かされたと思います。野球でも『2万5000人入れる』となると大変なんです。だけどこの部分が何千人、さらに何百人と割って、一個一個の細かいクオリティーを上げていくと最終的には目標を達成できる。そういった基礎を教えられました」
野球もバスケもビジネスの「核」となる要素は共通している。安田はこう説く。「お客様の心理をどうつかんで、より好きになってもらうというところは変わらない。ノウハウとしてはいろいろと伝授できる思います。一番の基準は数字に基づいて、お客様の行動を読むこと。ただスポーツビジネスってお客様の気持ちですごく変わるところがあって、空気を感じて仮説を立てて数字で検証して、それを実行に落とすことが必要です。もしくは逆に数字から仮説を立てて、お客様の様子を見てお話を聞いて施策に落してもいい。いずれにしても、その精度をどんどん高めていくという繰り返しだと思います」
葦原、安田がそろって口にするのは、手間をかけずに結果を出す「魔法」はないという現状認識だった。最終的には計画→実行→評価→改善の「PDCAサイクル」を地道に続けることが、Bリーグと京都の飛翔につながる。
日本のプロスポーツがデータや論理に基づいたビジネスらしい体裁を整えて、実はまだ日が浅い。Bリーグにもそんな「基本」ができていないクラブがおそらく少なからずある。しかしやるべきことをしっかり実行しているクラブは、千葉のように結果を出している。
Bリーグにそういったお手本を速やかに横へ展開する文化とプラットフォームがあることは、今後に向けた明るい兆候だ。観客数最少の京都をいかに浮上させるか――。そこでクラブと安田が結果を出すことができれば、そのまま同じ悩みを持つ他クラブの学びにもなる。京都の取り組みはBリーグ全体の発展を考える上でも、試金石となるチャレンジだ。