本田圭佑の“らしい”教育論とJへの見解 村井チェアマンと日本の未来を語る
Jリーグの村井チェアマンとの対談に向け、「ハングリー精神を維持するために朝食を抜いてきた」と本田 【(C)︎REALQ / Keita Yasukawa】
その1人目が、Jリーグの村井満チェアマンだ。本田は日本サッカーに携わる1人として、Jリーグの発展や改革に強い興味を持っている。一方、村井チェアマンは本田のメンタリティーを独自に分析し続けてきた。
日本サッカーの2人のキーパーソンが、Jリーグ、外国人枠、リバウンドメンタリティー、学校教育、子供時代に経験すべきことについて語り合う。
本田が必要と考えるJリーグの改革
村井 メールでやり取りしただけで、まだ会っていなかったですもんね。
本田 はい。本当にようやく会えたという感じで。
村井 そうですね。
本田 僕は今日素晴らしい話をさせてもらうために、シーズン中は絶対に欠かすことなく朝食をとるんですけれど、今日はわざと朝食を抜いてきました。ハングリー精神を維持するために。
村井 朝飯抜いたんだ(笑)。
本田 人間というのは食欲が満たされるとハングリー精神がなくなるんですよ。ハングリーってまさに、飢えるってことですから。
村井 面白いね。そこにこだわるんだ。
本田 そうなんですよ。僕は村井さんから話を聞くことに飢えているので、ご飯を食べたら満足して、素晴らしいディスカッションができひんかなって。じゃあ早速、僕から質問させていただいてもいいですか?
村井 もちろんいいですよ。
本田 僕はサッカー界に身を置く1人として、海外でプレーしていても、日本を代表している意識が強いんですね。日本サッカーへ貢献したいという思いがあって、もちろんずっとJリーグに目を向けています。それだけに、もっとJリーグに改革が必要なのではと感じています。たとえば外国人枠はどうなんでしょうか?
村井 大ざっぱに言うと、昨シーズンまでは外国人枠は3で、そこにアジア枠がプラス1ある状態でした。それが今シーズンからは外国人枠が5になった。1試合に出場できるのは従来通り、外国人枠3人+アジア枠1人のままではありますが。
本田 いいですね、枠を増やされたんですね。
村井 ヨーロッパでは国の概念がなくなってきていて、ヨーロッパ選抜のようなチームを作れるようになってきた。メキシコは外国人枠を撤廃して、南米におけるプレミアリーグのような存在を目指し始めた。
日本もそこに踏み出すというのが今回の決定です。ただ、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)の外国人枠が、3プラス1のままなんですね。僕らもアジアで勝ちたいので、ACLの外国人枠の状況も考慮しなければなりません。
本田 ACLに合わせるのではなく、ACL自体のルールを変えてしまえばいいんじゃないですか?
村井 まあそうなんだよね。そういう議論も早晩、どっかで始まるんじゃないかな。Jリーグのレベルアップを考えたときに、一番強い選手が集まるリーグを標榜していかないといけない。
本田 現在は外国人枠によって、日本人選手を守っているとも言えますよね。外国人枠を撤廃すると、日本人選手が守られなくなり、究極の実力主義になる。もしかしたらブラジル人が9人、日本人が2人。そんなチームが生まれるかもしれない。この試合に出ている日本人の2人って、ものすごく競争力のある選手だと思うんですね。きっと日本代表でも中心になる。
レアル・マドリーの黄金期のラウル(・ゴンサレス)は、まさにそんな感じの選手だった。サポーターにとってアイドルになるので、地域密着も成り立つ。もはや日本人がチーム内のシェアを占めていないといけない理由はないかなと。
村井 Jリーグが始まったときは、まだ10クラブしかなくて、日本人を守る必然性もあった。今は54クラブに増え、日本人選手の雇用の裾野は広がっている。護送船団方式ではなく、ここからは競争のフェーズに入っていくべきでしょう。ただ、現状を見ると、3人の外国人枠でさえも、使い切っていないクラブが多い。同時にリーグ経営の基盤をしっかり作って、世界がこっちに向いてくれるようにしないと、枠の緩和だけではダメ。
本田 なるほど。
村井 枠は広がったけれど(選手が)来ないっていうことじゃ困るよね。今回、ヴィッセル神戸にルーカス・ポドルスキが来た。スター選手に目を向けてもらい、もう一回Jリーグが世界水準にっていうのは本当に夢だね。
成功者の特徴を村井チェアマンが分析
村井チェアマン(左)も自身の経験をもとにした持論を本田へぶつける 【(C)︎REALQ / Keita Yasukawa】
本田 もちろんですよ。僕なんかでよければ。
村井 本田さんの許可を得ずに、Jリーグの新人研修などで本田さんの話をずっとしているんですよ。新人研修って昔に受けたことあるでしょ?
本田 あります。Jリーグに入ったときですね。
村井 チェアマンだから、私はそこで話をしなければいけないわけですよ。これからJリーグに入る皆さんに。
本田 はい。プロとは何か、みたいなね。
村井 ただ、私はプロ選手をやったことがないし、監督やコーチでもなかった。だから2015年の新人研修で初めて話すことになったときに、本当に困ったんですね。
そのとき一計を案じて、10年前の05年にJリーグに入った新卒選手が116人くらいいたんだけれど、全件調査することにしたの。育成の指導者、監督、コーチ、クラブの関係者にアンケートを取って。今でも、代表で頑張ってる本田さん、岡崎慎司さん、西川周作さんがいた世代です。
本田 そんな調査をされたんですね。
村井 活躍する選手と、早く引退する選手、その差は何かを知るために、たくさんの質問を用意した。たとえば岡崎選手は、失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、それほど技術が高いわけではなかったのに、今ではプレミアリーグで活躍している。
本田 僕もそうですね。G大阪のジュニアユースからユースに上がれなかったんですよ。
村井 そういう選手が、なぜ海外で活躍する選手になれたのか。アンケートで調べると、技術、フィジカル、闘争心といった部分では、そこまで大きな差は見られなかった。
本田 なるほど、深いなあ。
村井 そこからさらに掘り下げるために、過去の僕の仕事を生かした。僕はリクルート時代に人事系の仕事をしていたので、職務適性検査についてよく知っていたんですね。そこで職務適性検査で使われる項目を50個くらいアンケートに並べました。探究心とか、持続力とか、いろいろな能力を。
本田 おもしろいですね。
村井 そうしたら、本田選手とか、岡崎さんら成功した選手に共通していた能力が、「傾聴力」っていう能力だったんですよ。
本田 傾聴力。
村井 人の話をよく聞く能力。もう1つが、矛盾するような逆の能力で「主張力」。傾聴力と主張力が、50個の中で頭抜けて高かった。
本田 ああ、それはすごく新しいですね。
村井 これは仮説なんですが、サッカーって、プロがやってもミスが連続するスポーツじゃないですか。シュートミス、パスミス。あと起用についても、思い通りにならないことが多い。3年連続で得点王になっても代表に選ばれなかったりして。非常に理不尽なスポーツで、心が折れる連続のスポーツ。
本田 分かります。まさにそうです。
村井 そういう中でも、自分なりに努力して、いろいろなアドバイスを聞きながら試行錯誤して、挫折や失敗を乗り越えていく。僕はリバウンドメンタリティーって呼んでいます。リバウンドメンタリティーを構成するのは傾聴力と主張力で、それを本田さんは持っているんだって、新人研修で言っている。この見立ては合っているかな?
本田 合っていると思います。合っていると思いますけれど、それがどうやって培われるかっていうポイントまで落とし込むべきじゃないでしょうか。
そこまで分析されたこと自体素晴らしいと思います。初めて傾聴力って聞いたんですけれど、なるほどと思いました。違う言い方したら、謙虚とか、柔軟性とかに近いでしょうか。主張力というのは、僕らもよく使う言葉。自分の意見や哲学を言えるか。どれだけ信念を持っているかっていうことに関係していると思う。
プロの食うか、食われるかという世界で、正直キレイごとだけじゃない部分がある。岡崎にしても、西川にしても、他にも同世代で頑張っている選手がいるんですけれど、村井さんがおっしゃったようにまさに打たれ強い。
村井 リバウンドメンタリティーと言っていいかな。
本田 リバウンドメンタリティーと言えばまさにその通りで、失敗ありきのスポーツなので、失敗しない選手は絶対いないんですよ。(リオネル・)メッシやクリスティアーノ・ロナウドですらそう。彼らだってシュートを外す。どれだけ成功している選手でも、失敗の割合の方がおそらく多い。なのでリバウンドメンタリティーがなければ成功できない。そこはすごく的を射ています。