際が自ら勝ち取ったカンブールへの移籍 「競争を勝ち抜くことが大事な1年」
際のステップアップを阻んだTDの壁
昨季の際は、19位とチームが不振にもかかわらず、多くのクラブから関心を集めリストアップされていた 【Getty Images】
「昨シーズンは1年を通じてレベルアップしながらプレーできました。その過程で(ドルトレヒトでのプレーに)物足りなさを感じていたのも事実です。自分のレベルが上がっても、チームのレベル自体は上がっていなかったので、もうちょっと刺激が欲しかった。
日々のプレッシャーによって選手は成長できる。その日々のプレッシャーというものが、2年前のプロ契約した当時に比べて薄れていた。自分が努力すれば成長できるけれど、外的要因によるプラスアルファの成長は、今の環境では厳しいと感じていた」(際)
冬の移籍市場では改革を進めるオランダ2部のクラブから「プロジェクトに参加してほしい」という話を受けたが、際にとってはステップアップと感じられずに見送った。夏の移籍市場ではまず、ポルトガル1部のクラブから話が来た。しかし、ドルトレヒトのTDは移籍に協力的でなく、移籍金すら提示しなかった。「オファーが来たら移籍金を考える」とTDは言ったが、移籍金が分からなければ、相手側のクラブも正式にオファーを出せない。
「代理人と話をしてほしい」。そう際はTDに訴えた。しかし、TDは「俺が話をするのはオファーを出すクラブだけ。代理人とは話さない」と突っぱねたという。やがて、そのクラブは待ち切れず、他の選手にターゲットを変えてしまった。
「TDが代理人と話をしてくれなくて、自分自身で交渉したり、話し合わなければいけなかった。どうしてもTD対選手は“雇っている側”と“雇われている側”なので、TDの方が強いですよね」(際)
何とか粘ってTDから移籍金を聞き出した際だが、今度はセカンドチーム落ちという扱いを受けた。メディアには「際はホームシックにかかって日本に帰りたがっている」「際の頭の中は移籍のことでいっぱいで、練習に身が入っていない」という記事が載った。しかし、ドルトレヒトの首脳陣は際の側についてくれた。「TDのエゴで、将来性のある若い選手の芽を摘んではいけない」という良心が、彼らにはあったのだ。そこから移籍の話が進んでいった。
AZの練習参加後、カンブールからオファーを受ける
「競争に勝ち抜くことが大事な1年だと思います」と語る際 【中田徹】
練習参加とはおおむね「受かるか」「受からないか」の二択であるが、際が人として面白いのは、結果としてはテストに落ちても、そこでしっかりコネクションをつなげてしまうところだ。際は、AZからこう言われた。
「これから他のクラブからオファーが届いたら、AZが君の練習参加のレファレンス(身元保証書)を出してあげるから連絡してほしい。そこには監督やコーチの評価が書いてある」
際がカンブールからオファーを受けたのは、AZの練習参加から間もないことである。
「AZとカンブールも親交があるのは面白いです。シーズンオフには練習試合をやっていますし、元AZの選手もカンブールにいます。去年のコーチ(アルノ・スロット)が今、AZのアシスタントコーチをやってます。僕の推測ですが、ドルトレヒトというオランダ2部リーグの下位チームと、AZではギャップが大きかったということが少なからずあって、もうワンステップ踏む必要があったと思うんです」(際)
勉強すること、コミュニケーションを円滑にとること、必要な時には主張し戦うこと。際はその結果、オランダ2部の上位クラブ、カンブールへの移籍を勝ち取った。今回、際が気付いたことは、自分も移籍マーケットに名前が載っているということだった。オランダ1部という舞台に立てば、もっと大きなマーケットが広がってくる。
「ドルトレヒトと単純に比較して、カンブールは勝ちが求められるチームなので。昇格は絶対的な目標として掲げられています。個人的には毎週、試合に関わること。そこが一番重要です。そこで活躍することが1部昇格につながってくると思う」
右SBのポジションにはジョルディ・ファン・デーレンという手ごわいライバルもいる。だが、こういう競争こそ、際が待ちわびたことでもあった。
「競争を勝ち抜くことが大事な1年だと思います」と際は誓った。