オーストラリアの失速を招いた新システム つなぐサッカーに固執、評価が揺らぐ名将

植松久隆

いばらの道と化したW杯への道のり

終盤に失速してW杯予選3位に終わったオーストラリア 【Getty Images】

 アジア王者がつまずいた。日豪両国とサウジアラビアの三つどもえで最終戦までもつれ込んだワールドカップ(W杯)アジア最終予選グループB。オーストラリアは日豪戦の前段階では、8戦4勝4分けの勝ち点16でグループ唯一の負けなしの3位に付けていた。

 しかし、「最大の関門、アウェーでの日豪戦を乗り切り、最終戦のホームでのタイ戦で快勝して自力通過」という彼らが描いたシナリオどおりにことは進まなかった。日豪戦は、全くいいところなしの0−2で完敗。続くタイ戦も圧倒的にゲームを支配しながら、辛うじて勝ち点3を挙げる薄氷の勝利(2−1)。自力通過を果たせないどころか、日本がサウジアラビアに敗れたことで他力本願もかなわずに3位フィニッシュ。オーストラリアのW杯出場決定は持ち越された。今後は、ホーム&アウェーで戦われるシリアとのアジア最終予選プレーオフ、そこを勝ち抜いてからは北中米予選4位との大陸間プレーオフが待ち構えており、そのW杯への道のりは一気にいばらの道と化した。

監督はポゼッション・フットボール信奉者

ポゼッション・フットボールを信奉するポステコグルー監督。「3−2−4−1」システムの採用が失速を招いた 【Getty Images】

 最終盤になっての失速の原因は何か――サッカルーズ(オーストラリア代表の愛称)の今予選の戦いぶりをひもとくと、その答えが今年に入ってから採用された新システムの不徹底にあることは誰の目にも明らかだ。オーストラリアは長らく伝統とも言える左右にウイングが張り出す「4−3−3」を採用してきた。アンジ・ポステコグルー監督の就任後も、多少のバリエーションはあれど、システム上はこの流れを踏襲していた。

 オーストラリアのアジアにおける強みは、アジア有数のフィジカルの強さや高さにある。しかし、生粋のポゼッション・フットボール信奉者であるポステコグルー監督は、それらの強みを生かせるスタイルを捨て去ってでも、パス・サッカーでの新しいオーストラリアのスタイルを創り出すことに注力してきた。その過程で、自らのさらなるポゼッション志向を体現するには、伝統的システムからの脱却が不可欠と判断し、新システム導入を決断するに至った。かくして、現行の「3−2−4−1」システムが陽の目を見ることとなった。

コンフェデ杯の善戦で「問題」はうやむやに

チリと引き分けるなど善戦したコンフェデ杯が新システムの問題をうやむやにした 【写真:ロイター/アフロ】

 その新システムのお披露目となった最終予選3月シリーズは1勝1分け(イラクに1−1、UAEに2−0)、6月のサウジアラビア戦の辛勝(3−2)と何とか結果を残してきたことで、新システムへの適合が大きな問題として取り上げられることはなかった。しかし、個々の選手のパフォーマンスには適合に苦慮する様子がはっきり見て取れるなど不安は残った。

 その後、コンフェデレーションカップ(以下、コンフェデ杯)の壮行試合として行われた世界トップレベルのブラジルとの親善試合で、その不安が誰の目にも見える形で噴出した。飛車角落ちのカナリア軍団に試合を完全に支配され、守備が破綻しての惨敗(0−4)。4失点と3バックによる守備面での脆弱性を露見して、翌月に迫ったコンフェデ杯を前に大きな不安を残したのだ。

 しかし、他大陸の強豪と相まみえたコンフェデ杯で一転、好パフォーマンスを見せたことで、また「問題」はうやむやのままとなった。新システムが「機能」して、ドイツ(2−3)、カメルーン(1−1)、チリ(1−1)という並みいる強豪相手に善戦。特に最後のチリ戦ではあわやのシーンを演出するなど、予選敗退ながら新システムへの「手応え」をつかんでプレW杯を終えた。

 ここで監督や選手、そしてファンやメディアすらも「新システムが形になってきた」という思いを抱いてしまった。同大会での対戦国にしてみれば、アンダードッグであるオーストラリアのことをそこまで研究していなかっただろうし、プレW杯とはいえW杯予選ほどの切った張ったの状況ではなかった。その大会での結果だけで、「通用する」「機能する」と楽観したのが、そもそもの間違いだった。そのことを、サッカルーズはW杯予選の最終盤で思い知らされることになる。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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