ファイナンシャル・ドーピングの危険性 “警報”が鳴り響く欧州フットボール界
FFPを無視したオイルマネーの流入
PSGは今季、ネイマールとムバッペだけで4億ユーロ以上を費やした 【写真:ロイター/アフロ】
ラ・リーガ(スペインプロリーグ機構)のハビエル・テバス会長は先日、UEFA(欧州サッカー連盟)に対してマンチェスター・シティとパリ・サンジェルマン(PSG)の“ファイナンシャル・ドーピング”を調査するよう訴えた。この2クラブは大型補強を実現すべく、中東の国家から不当な形で資金援助を受けてきた可能性が疑われている。
カタール、UAEといった裕福な国家が航空会社や銀行などの関連企業を通して莫大な投資を行っている現状がこのまま許されれば、すぐに歴史の浅い新興クラブがトップレベルに躍り出るようになる。ペレスのみならず、バイエルン・ミュンヘンやユベントス、ミラン、インテルといったビッグクラブは以前からUEFAに対し、ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)を無視したオイルマネーの流入に不満を発してきた。
昨年にはUEFAのミッシェル・プラティニ前会長によって改正された出場枠の配分を不服とし、欧州クラブ協会(ECA)の主要クラブがチャンピオンズリーグ(CL)からの脱退に踏み切る寸前まで至った。
FIFA(国際サッカー連盟)のジョセフ・ブラッター前会長と親しく、次期会長の座を狙っていたプラティニは、主要国以外の中小国にCLやヨーロッパリーグへの出場のチャンスを増やすことで、UEFA内での権力を増してきた。一方、そのやり方に反発した主要国のビッグクラブはCLから脱退し、独自のスーパーリーグを組織する可能性を示唆してきた。
だが、FIFAの汚職に関与したプラティニがブラッターとともに失脚し、16年9月にスロベニア人弁護士のアレクサンデル・チェフェリンがUEFAの新会長に就任したことで、UEFAとECAは歩み寄りを見せる。チェフェリンが来季からCLの出場枠の配分を改正し、主要国のビッグクラブへの割り当てを増やすと約束したことで、ECAもスーパーリーグ構想を放棄してUEFA主催大会への残留を受け入れたのである。
PSGとマンチェスター・Cが大型補強を敢行
マンチェスター・シティはメンディ(右)らの補強に2億ユーロ以上をかけている 【Getty Images】
オーナーのナセル・アルケライフィを介してカタールとつながっているPSGは、たった2人のビッグネーム、ネイマールとキリアン・ムバッペの獲得にまつわる取引きだけで4億ユーロ(約520億円)以上を費やした。UAEの王族シェイク・マンスールをオーナーに持つマンチェスター・シティは、2億4000万ユーロ(311億8000万円)を投じてバンジャマン・メンディやベルナルド・シウバ、ダニーロ、ドウグラス・ルイス、エデルソン、カイル・ウォーカーらを補強している。
ヨーロッパのすべてのクラブは、収入を超えた支出を禁じるFFP制度を守らなければならない。ラ・リーガが訴えているのは、マンチェスター・シティやPSGが使っている補強資金にはクラブ自体が生み出したとは言えない収入が多分に含まれていることだ。
例えば、PSGはプレー内容やクラブ経営を通してそれ相応の利益を生み出したわけではなく、ただフットボールを通して良いイメージを振りまきたいというカタール国家の望みにより、同国家の関連企業を通してスポンサー収入という名目で莫大な資金援助を受けている。
カタールの思惑はネイマールの獲得にも表れている。莫大な移籍ボーナスをネイマール本人と代理人を務める父親に払ってPSG移籍を実現したのは、ネイマールを22年にカタールで開催されるワールドカップの広告塔とするためだ。そのころにはリオネル・メッシもクリスティアーノ・ロナウドも大ベテランとなっているだけに、納得の人選である。