【サウジカップ回顧】「映画より素敵」なフォーエバーヤング、劇的逆転で日本馬の宿敵倒す
なんというドラマチックなフィニッシュだったろうか。そして歴史に残るであろう名勝負を制して主役を譲らなかった日本の4歳エースのパフォーマンスを、世界のホースマンと競馬ファンはどのように受け止めただろうか。
「最後の直線は馬を信じるしかなかったのですが、これで前の馬を交わすことができたなら映画よりも素敵だなと思いました」
レース後の会見で、そう激闘を振り返ったのは矢作調教師。これはフィクションではない。「映画より素敵」なことは、現実の出来事として起きたのだ。
「特にプランは決めていませんでしたが、できればロマンチックウォリアーの前で勝負したいなと思っていました。考えられる中で一番理想的なレースができました」
道中の折り合いもリズムも、そして手応えも十分に映ったフォーエバーヤングと坂井騎手。だが4コーナー、それを上回る勢いで進出してきたのが、やはりと言うべきか、ロマンチックウォリアーだった。砂のキックバックを避けて大外に持ち出すと、馬なりのまま前の4頭に並ぶどころからアッという間にフォーエバーヤングをパスして先頭へと躍り出る。鞍上のジェームズ・マクドナルド騎手はターフビジョンを確認するほどの余裕があり、その脚勢からしても勝負あり、と多くの人が思ったとしても仕方がない。いや、普通ならばそうなのだろう。
だが、1馬身差で食らいついていたフォーエバーヤング&坂井騎手が残り200mで馬場の外へと切り替えると、ここから矢作調教師ですら「信じられない」と感嘆の声を上げた逆襲劇が幕を開ける。まるで、まだ使っていなかったもう1段階上のギアにシフトチェンジしたかのようにフォーエバーヤングはグングンと加速。1完歩、そしてまた1完歩と今度は逆にロマンチックウォリアーを追い詰め、残り50mで並ぶと、最後の3完歩でついに逆転――歓喜のゴールへと飛び込んだ。
直後の馬上インタビュー、坂井騎手は英語でそう答えていた。これまでも海外レースで勝利するたびに英語での受け答えも冷静にこなしていたが、今回ばかりは言葉を失うほどに感情を揺さぶられる、そんな相棒の走りだったのだろう。「この勝利はあなたにとって、日本競馬にどのような意味があるか」と問われた27歳の主戦は、やや間を置いた後、「嬉しいことです」と日本語で絞り出した。
あらためて説明するのも野暮かもしれないが、ロマンチックウォリアーという馬は単なる香港最強馬ではない。昨年だけでも日本で安田記念を制し、地元の香港カップでは三冠牝馬リバティアイランドすら寄せ付けなかった。そして今回は初のダート挑戦にも関わらず、2023年ドバイワールドカップ覇者のウシュバテソーロ以下を10馬身も置き去りにしてみせた。そんな、まぎれもない世界最強クラスの1頭に一度は完全にリードを許しながら、最後に差し返したフォーエバーヤングのパフォーマンスをもうどのように形容していいのか分からない。
「私が手がけた馬の中でも最高の馬だなと確信しました」
無敗のクラシック三冠馬コントレイルをはじめ、国内と海外合わせてGI・4勝のリスグラシューとラヴズオンリーユーら、これまで数多くの名馬を育て上げた世界屈指のトレーナーが「確信」とまで語った最高の1頭。2025年世界制覇の旅、その最初の一歩はこれ以上ない形で踏みしめた。次なるターゲットは同じ中東を舞台とした4月5日(土)のドバイワールドカップだ。
なお、同じく日本からサウジカップに参戦した菅原明良騎手騎乗のウシュバテソーロ(牡8=美浦・高木登厩舎)は3着、川田将雅騎手騎乗のウィルソンテソーロ(牡6=美浦・高木登厩舎)は4着、三浦皇成騎手騎乗のラムジェット(牡4=栗東・佐々木晶三厩舎)は6着だった。
文:森永淳洋
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