互いに高め合うDeNA桑原と柴田 1・2番コンビがチームをけん引

日比野恭三

謙虚に地道に練習を重ねレギュラーに定着した桑原 【(C)YDB】

 日付が7月1日に変わった時点で、横浜DeNAの勝率はちょうど5割だった。その夜の巨人戦に勝って今シーズン初の貯金をつくると、7月は12勝8敗1分。8月も18日〜20日の巨人戦で3タテを喫しながらも、ここまで7勝8敗1分で踏みとどまり、今季は一度も5割ラインを下回ることなくいまに至っている。

地道な努力家が月間MVPを獲得

 この間、「打」でチームをけん引したのは、1番を任されている桑原将志だ。

 7月1日、巨人戦の9回に放った逆転満塁ホームランをのろしに打ちまくり、月間打率はリーグトップの3割8分9厘をマーク。自身初の月間MVPに輝いた。

 受賞会見の席上、桑原はややかしこまった表情で好調の要因をこう説明した。

「春先、悪い時期がありましたけれども、悪いからといって特別リズムを変えることなく、自分の中でルーティンじゃないですけど、試合に臨む準備は変えなかったので、それが実った月ではないかなと思います」

 開幕から波に乗れず、4打数ノーヒットに終わった5月21日には打率が2割ちょうどまで落ち込んだ。

 悪い時ほど自分のやり方に疑念を抱き、新しいことに手を出したくなるのが人情というものだ。それでも「変えない」ことを選択した理由について、桑原は言う。

「去年からずっとやってきたことがやっと形として、結果として出てきた部分があったので、それを変えたくなかった。悪くなったら変えて、という模索はちょっときついかなと思いました」

 福知山成美高を卒業してプロに入り6年目。自分が取り入れるべきものを見極め、コツコツと地道に積み上げてきた努力家らしい言葉に聞こえた。

不器用だからこそ練習を積み重ねる

 以前、メジャー某球団のスカウト経験者がこんなことを言っていた。

「大谷翔平の投球時のテイクバックには、人工的なものが感じられる」

 思考や意識を介さないナチュラルな動きではなく、おそらくは成長過程の中で受けた指導によってつくられたもの、という見立てだ。

 グラウンドに立つ桑原の姿を見つめながら、その言葉が頭をよぎることがある。卓越した感性で滑らかな身のこなしを見せる天才肌の選手とは違い、どこか一つひとつの動作を確認しながらプレーしているように見えるのだ。

 そこで桑原に「自分を器用だと思うか」と尋ねると、こう即答した。

「不器用だと思います。器用ってまず感じたことがない。味方も相手の選手も、見ててすごいなと思う人がいっぱいいますし、自分はまだまだやなって日々思いますね」

 自分は不器用だと思うからこそ、人一倍練習をする。指導者の言葉に耳を傾け、試行錯誤しながら自分に合ったやり方を探る。件の元スカウトの表現を借りれば「人工的」にも感じられた桑原の動きは、そうした鍛錬の産物なのではないだろうか。

 その積み重ねの一つの到達点が、昨シーズンつかみとったレギュラーの座だ。それは歩んできた道の正しさを証明するものであり、だからこそ不調の今季序盤もやすやすと変えたくはなかった。「模索はきつい」という言葉のとおり、シーズンの途中に路線変更できるほど器用ではない、とも言える。

 向上心の源泉をもう一つ挙げるなら、謙虚さだろう。文句なしのレギュラーとなったいまも「年下ですから当然のこと」と、全体練習の最後にトンボを握りグラウンド整備に協力することを欠かさない。

「(野球を始めてから)自分がうまいとか、一番だとか、思ったことはないですね。そういうふうに思ってるようじゃ成長はないと思うし、昔からおごりだとか慢心するということはイヤでした。親には常に『謙虚に生きなさい』と言われてきたので、その部分は変えないようにしています」

 プロ入り後にコンバートされた外野の守備でも、練習を重ねたすえ、いまではセンターとしてリーグトップクラスの指標をたたき出している。盗塁の成功率という課題は残しつつも、走攻守すべてにおいて、いまのDeNAに欠かせぬ選手であることは間違いない。

 元内野手の桑原が「外野から見ていて安心できる。自分の比じゃない」と苦笑まじりに語るのは、セカンド、柴田竜拓の守備力である。

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著者プロフィール

1981年、宮崎県生まれ。2010年より『Number』編集部の所属となり、同誌の編集および執筆に従事。6年間の在籍を経て2016年、フリーに。野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを中心的なフィールドとして活動中。

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