投手の良し悪しをどう評価する? 初めてのセイバーメトリクス講座(2)
この辺が箱根の山!?
鳥越規央先生(左)にFIPを教わるカネシゲタカシ氏 【スポーツナビ】
FIPとは「Fielding Independent Pitching」の略で、式はこうなります。
FIP={13×被本塁打数+3×(四死球数−敬遠数)−2×奪三振数}/投球回数+リーグ補正値
※リーグ補正値=リーグ全体の防御率−{13×全被本塁打数+3×(全四死球数−全敬遠数)−2×全奪三振数}/全投球回数
カネシゲ:おっと、急にややっこい数式が出てきたぞ。
鳥越:計算式は複雑に見えますが、これで出てくる数字は防御率っぽい数字なんです。
カネシゲ:防御率っぽい?
鳥越:そもそもFIPは被本塁打、与四死球、奪三振だけで防御率っぽいものを作ろうとして考案された指標なんです。なので数字も防御率の感覚で見ればいい。1点台だといいピッチャーだな、みたいに捉えれば大丈夫です。
カネシゲ:感覚的にはわかりやすいですね。防御率は馴染みがありますから。
鳥越:ちょっと計算式の説明をしましょう。なぜ被本塁打数に13を掛けたりしているのかという話。それは「ひとつのプレーによってどれだけ点数が生み出されるか」という推測の数字なんです。
カネシゲ:推測の数字?
【資料提供:鳥越規央】
カネシゲ:ちょっ、ちょっと整理しますね。本塁打の1.42に9を掛けたのがだいたい13。そもそもなんで9を掛けるんだろう……? あ、そうか。防御率っぽいものを作るためだ!
防御率=(自責点×9) /投球回数
鳥越:はい、ひとつのプレーの得点価値を出して、それを9イニング分掛けています。それを投球回数で割ることで、防御率っぽくしてるんですね。数式に「リーグ補正値」というのがあるでしょう? プロ野球の防御率の平均とちょうど同じになるように調整しているんです。
カネシゲ:意図はわかりました。でもここ、急に難しい。ママチャリで東京から大阪目指す人にとっての箱根だ。最初の難関だ。
鳥越:13、3、2の数字の根拠だけ分かってくれれば大丈夫ですよ。ざっくり行きましょう。
7月26日時点。規定投球回数の1/3以上を投げた投手を対象 【資料提供:鳥越規央】
鳥越:そうです、防御率の感覚で見て「やっぱり1点台はすごいな〜」とかでOKです。いままでのランキングとはちょっと趣が異なりますよね。ホームランを打たれていないというところを含めて見られるので。ここでもリリーフ投手は上位に来る傾向にあります。
カネシゲ:それも防御率と同じですね。計算式は難しいけど、防御率っぽく見ればいいと言うのは気に入りました!
ピッチャーのタイプを表す数字を紹介
カネシゲ:GOは「ゴロアウト」の略かな。AOは?
鳥越:「エアアウト」です。フライだけではなくライナーも含めます。1.0を超えるとゴロを打たせるタイプの投手、1.0未満だとフライを打たせるタイプの投手になります。
7月26日時点。規定投球回数到達投手を対象 【資料提供:鳥越規央】
カネシゲ:これはいくつだから優秀とかではないんですね?
鳥越:ではないです。あくまでタイプを表す指標なので。しかし現在はゴロアウト率の高いピッチャーが評価される傾向にありますね。やっぱりフライはホームランを打たれるリスクもあるので。
カネシゲ:ちなみに今回は「QS」から始まって「K/BB」に「WHIP」に「FIP」や「GO/AO」まで出てきました。どの辺りまで一般的に使われている指標ですか?
鳥越:FIPまでは見てますかね。やっぱり防御率が悪くてもFIPがいいピッチャーはいるんですよ。それは守備に足を引っ張られているということです。
カネシゲ:なるほど!
鳥越:阪神のピッチャーはみんなそうです。総じてFIPはいいのに、防御率が悪くなるのは守備の影響です。○○を××で使うのとかやめてくれないかなぁ……ぶつぶつ。(※筆者注:鳥越先生は阪神ファン)
カネシゲ:先生、記事に書けないような毒を吐くのはやめてください……。
【イラスト:カネシゲタカシ】
江戸川大学客員教授。「セイバーメトリクス」の日本での第一人者である。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ、「AKBペナントレース」の得点換算方法の開発など、エンターテインメント業界でも活躍中。JAPAN MENSA会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。