投手の良し悪しをどう評価する? 初めてのセイバーメトリクス講座(2)
投手の責任だけで算出される数値は?
カネシゲ:飽くなき追及ですね。
鳥越:例えば「防御率」は自責点が多ければ悪くなりますが、そもそも失点や自責点はピッチャーだけの責任でしょうか?
カネシゲ:いやいや、野手の責任もあります。投手がいくら頑張っても、守備がヘタクソなチームなら失点も自責点も多くなりますもん。
鳥越:そうです。“このプレーによる失点は投手の責任か否か”という責任分担を考慮に入れないと不公平ですよね?
カネシゲ:うーん、とはいえその判断はすごく難しいな……。
鳥越:でも、たとえば「ホームランを打たれる」というのはピッチャーだけの責任ですよね?
カネシゲ:あ、それはそうですね。ホームランは守備じゃカバーできない。
鳥越:同じように四死球を出すというのもピッチャーの責任ですね。また三振を取ることもピッチャーだけで成立するプレーです。ピッチャーの能力だけで失点を防ぐことが可能です。
カネシゲ:ふむふむ。
鳥越:そこで「被本塁打」、「与四球」、「与死球」、「奪三振」だけで投手を評価しようという考えが生まれてきたんです。
カネシゲ:うおっ、結構大胆ですね。その4つ以外は切り捨てると?
鳥越:切り捨てます。ピッチャーの責任で生じたプレーだけでピッチャーを評価する、それが「DIPS(ディプス)」という考え方。“守備によらないピッチャーだけの統計”という意味があります。
【資料提供:鳥越規央、作画:カネシゲタカシ】
鳥越:たとえばその4つのうち、奪三振と四球の比率だけで見るセイバー指標があって、それを「K/BB(ケースラッシュビービー)」といいます。大雑把ですがその投手の制球力がわかります。
カネシゲ:ケースラッシュビービー。響きがかっこいいですね。
鳥越:四球1個に対し三振をいくつ取ったかという数値です。3.5を超えると優秀な投手と言えます。
7月26日時点。規定投球回数の1/3以上を投げた投手を対象 【資料提供:鳥越規央】
鳥越:それは半分正解。三振も取れるけど四球も少ないってことです。たとえば則本昂大(楽天)はこの時点でパ・リーグで奪三振数トップですが、四球も多いのでK/BBだと5位なんです。まあ5位でも十分すごいんですけどね。
カネシゲ:これもWHIPのようにリリーフ投手のほうがいい数字が出る傾向にありますか?
鳥越:むしろ、この数字がいい投手がクローザーとしての資質があると言えるでしょう。三振を取れて四球を出さなければ、それだけピンチで抑えられるということですから。たとえば12年の上原浩治(当時レンジャーズ)は14.33という大変優秀なK/BBをマークしています。なんと37試合で36イニング投げて、四球はわずか3個に対して奪三振は43。
カネシゲ:すごい! いまのサファテ以上の数値をメジャーで記録するなんて。