オランダ国民にとって「忘れられない夏」 地元開催の女子ユーロを制し、ブーム到来

中田徹

地元開催の女子ユーロで初優勝

地元開催の女子ユーロで初優勝を果たしたオランダ代表。女子サッカーブームに火を付けた 【写真:ロイター/アフロ】

 現地時間8月6日、オランダ女子代表は地元開催の女子ユーロ(欧州選手権)の決勝戦(エンスヘデ)でデンマークと初優勝を懸けて戦い、熱戦を4−2で制した。スタジアムに集まった観客は2万8182人。テレビで応援したのは約410万人。閉幕セレモニーでトロフィーを渡される瞬間を見たのは約550万人に及んだ。オランダの人口が約1700万人であることを思うと、ものすごい数字だ。優勝に沸く“オランイェ・レーウウィネン(雌ライオンたち=オランダ女子代表の愛称。単にオランイェとも呼ばれる)”を更衣室に訪ねたマルク・ルッテ首相は「君たちは、決して忘れることのできない夏を作ってくれた」と選手たちをねぎらった。

 そう、この夏はオランダ国民にとって決して忘れることのできない夏になったのだ。7月16日、ユトレヒトのオープニングマッチでノルウェーと1−0という得点差以上の快勝でファンをうならせたオランダは、空前の女子サッカーブームに火を付け、最後まで勢いを失うことなく6戦全勝13得点3失点の好成績でこの大会を走りきった。

よみがえる数々の名場面

決勝トーナメントで4ゴールを固め取りしたエースのミーデマ 【写真:ロイター/アフロ】

 目を閉じて、この3週間を振り返るといくつかの名場面がよみがえってくる。グループリーグ最終戦、対ベルギー(2−1)では、リーケ・マルテンス(バルセロナ)のクロスが相手に当たってコースが変わり、決勝ゴールになった。このラッキーゴールは、GKサリ・ファン・フェーネンダール(アーセナル)のミスによる失点を救い、チームを決勝トーナメントに導き、オランダ人に「ツキがあるぞ」と確信させた貴重なものだった。マルテンス自身、この大会のラッキーガールとなりMVPに選ばれることになる。

 オランダの強力3トップが威力を発揮したのが、準々決勝の対スウェーデン戦(2−0)の2点目だった。左ウイングのマルテンスがカウンターの起点となるミドルパスを右のオープンスペースに送り、右ウイングのシャニセ・ファン・デ・サンデン(アーセナル)のクロスをエースのビビアン・ミーデマ(アーセナル)がダイレクトで合わせて決めた。グループリーグでノーゴールだったミーデマは、これで一気に調子を上げ、決勝トーナメント3試合で4ゴールを固め取りして得点ランキングの2位に付けた。

一体感を生んだ2人のチームリーダー

2人で優勝トロフィーを掲げたスピッツェ(手前右)とファン・デン・ベルフ 【写真:ロイター/アフロ】

 一番、私の心に響いたのが決勝戦の対デンマーク、4−2とリードして優勝を確信したアディショナルタイム4分、左サイドバック(SB)のキカ・ファン・エス(トゥエンテ)に代わってマンディ・ファン・デン・ベルフ(レディング)がピッチに入り、その後の優勝セレモニーで彼女とMFシェリダ・スピッツェ(トゥエンテ)が共同で優勝トロフィーを受け取ったシーンだった。

 ファン・デン・ベルフはセンターバックで、キャプテンでもあった。しかし、どうも相手に背後をとられることから、3戦目のベルギー戦からレギュラーの座を剥奪されてしまった。もちろん、悔しさがあったことを後に明かしているが、すぐにチームのために気持ちを切り替え、ピッチの外からチームを支え続けていたという。

 3戦目からキャプテンを務めたスピッツェは中盤で、攻守に欠かせぬチームの軸として活躍。決勝戦の4点目を導いたミーデマへのスルーパスは、一突きのパスで戦況を変えることのできる彼女の特色を表していた。優勝直後のスピッツェは完全に喉が壊れて、声がつぶれていた。それだけでも、スピッツェの声がどれだけピッチの上で重要だったのかがうかがえる。

 今大会のオランダは「家族のような一体感があった」と言われる。大会途中から2人のチームリーダーが、ピッチの中と外で役割を分担し、仲間を引っ張っていったのだから、確かにオランダにはトーナメントを勝ち抜く上で重要な化学反応が生まれていたのだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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