ネイマールの移籍がバブル崩壊の転機に? 止まらない移籍金の高騰と「ドミノ現象」

移籍金が高騰する流れを止めるのは不可能

ネイマールと父親(中央)が多額の収入を得たPSGへの移籍は、選手の移籍金を高騰させる引き金となる 【Getty Images】

 パリ・サンジェルマン(PSG)のホームスタジアム、パルク・デ・プランスでファンの歓待を受けたネイマールのPSG移籍は、フットボール界において1990年代半ばのボスマン判決に匹敵する重要な転機となった。

 移籍金だけで2億2200万ユーロ(約286億4000万円)、選手本人に支払われる年俸や代理人を務める父親へのボーナスを含めれば総額5億ユーロ(約645億1000万円)にも上る大金を動かしたこの一大移籍は、今後多くのスター選手たちの移籍金を高騰させる引き金となる。この流れは、とりわけスペインと米国に壊滅的な影響をもたらした不動産バブルの崩壊に似た、市場システムの崩壊につながりかねない。

 既に素晴らしいタレントを発揮しているとはいえ、現時点ではまだ将来的なスター候補にすぎないフィリペ・コウチーニョ(リバプール)、パウロ・ディバラ(ユベントス)、ユリアン・ドラクスラー(PSG)といった選手たちの移籍金も、ネイマールの移籍が与えた影響により1億ユーロ(約129億円)か、それ以上にまで高騰している。もはやこの流れを止めることは不可能だ。

原因はカタール、ロシア、中国の“国家クラブ”

カタールの王族であるPSGのアル・ケラフィ会長(左)。彼ら新興勢力が現状をもたらした 【写真:ロイター/アフロ】

 このような状況をもたらしたのは伝統的なビッグクラブではなく、“国家クラブ”と呼ぶべき新興勢力である。民間企業や株式会社の形をとっているこれらの新興勢力は、国外から来たオーナーによる巨額の投資によって急成長を果たした。そしてこれらのオーナーたちには、親族関係にある、もしくは特定の政治的な目的を持った国家がバックについている。

 その1人、PSGのオーナーであるカタールの王族ナセル・アル・ケライフィは、自身が持つ160億ユーロ(約2兆640億円)もの個人資産だけでなく、潤沢なオイルマネーを持つカタール国家の支援も受けている。ネイマールの移籍については、クラブの収入を上回る支出を禁じるUEFA(欧州サッカー連盟)のファイナンシャル・フェアプレー(FFP)に反する可能性が指摘されているが、現段階では動きはない。UEFAでクラブライセンスとFFPを管理しているアンドレア・トラベルソは「払える金があるのなら、われわれに止めるすべはない」と主張し、PSGの“爆買い”を厳しく規制することを断念している。

 またカタールがネイマールの獲得を支援したのは、自国開催のワールドカップ(W杯)2022年大会の広告塔として彼を起用することも視野に入れてのことだった。

 他の“国家クラブ”の例としては、ロシア・プレミアリーグの主要クラブが挙げられる。カタールと同じく、来年に自国開催のW杯を控えるロシアでは、各クラブが国家から莫大な支援を受けている。それは14年にW杯を開催したブラジルでも起こったことだ。

 ロシアのクラブは今夏、莫大な強化費を費やしている。ゼニト・サンクトペテルブルクだけでも、オリンピック・リヨンのエマヌエル・マンマナ、ローマのレアンドロ・パレデス、アトレティコ・マドリーのマティアス・クラネビッテル、そして昨季アルゼンチンリーグで得点を量産したリーベル・プレートのセバスティアン・ドリウッシと、トップレベルのアルゼンチン人選手を4人も獲得している。

 3つ目の例は中国のスーパーリーグだ。経済力を増し続ける中国は、世界規模で注目を集めるフットボール界での地位向上を目指し、国を挙げてリーグのレベル向上に努めてきた。だが最近では各クラブの行き過ぎた支出が不安視されるようになっている。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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