バスケ女子代表、強さを支える3つの要因 アジア3連覇の先に見据える世界のメダル

小永吉陽子

ホーバスHCの下でアジア3連覇

1月に就任したトム・ホーバスHCの下、アジアカップ3連覇を果たした女子日本代表 【小永吉陽子】

「日本の女子バスケはメダルを取れる」

 現女子日本代表ヘッドコーチ(HC)のトム・ホーバスがこう発言したのは2010年、チェコで開催された世界選手権の時だった。

 当時のホーバスHCはJX−ENEOSのコーチングスタッフに就任したばかりで、Wリーグからの視察で大会に足を運んでいた。世界選手権で日本が勝利したのはアルゼンチンとギリシャからの2勝で順位は10位。それでも、強豪国に健闘する戦いぶりを見て、ホーバスHCは期待を込めてこう言ったのだ。

「日本の女子はどこの国よりも一生懸命に練習します。この姿勢で練習を続け、シュート力とスピードを生かすことで高さは克服できる! メダルだって狙えるよ」

 あれから7年――。ホーバスは当時の思いはそのままに、本気で世界大会でのメダル獲得を目標に、女子代表のHCに就任した。そして「メダル取り」の第一関門といえるアジアカップで3連覇を成し遂げたのだ。リオデジャネイロ五輪後のチーム再編期、しかもFIBAランキング4位(2016年8月20日付、日本は13位)のオーストラリアが加入することになった大会で、アジア3連覇を果たしたその価値はとても大きいと言える。

 実際、今回のアジアカップは難しい位置づけの大会だった。リオ五輪で主力を務めた吉田亜沙美、高田真希、大崎佑圭らの主力がモチベーションやコンディションをピークに持っていくことに時間を要した中で、エースの渡嘉敷来夢がWNBAの活動に専念するために不在。リオ五輪でスタメンを務めた栗原三佳や本川紗奈生はけがの完治を優先。最終的には初代表組5名が加わる中でチームを編成したのだ。

 そんな状況下でも結果を残せたのは、どこにも負けない脚力があったこと、新戦力が台頭したこと、そして随所の好采配で乗り切ったホーバスHCの手腕によるところが大きい。日本の強みが「しつこく、あきらめない」モットーのもとで試合をこなすうちに、成長となって現れたのだ。予選ラウンドでオーストラリアに敗戦(74−83)してからもディフェンスや選手の組み合わせで修正を重ね、準決勝では中国に74−71、決勝ではオーストラリアに74−73と僅差の勝負を制することができた。まさしく「育てながら勝つ」ことに成功した今大会。あらためてその強さの要因を探り、今後、女子バスケがどのように飛躍していくのかを考察したい。

輝いた3人のポイントガードの層の厚さ

吉田の戦線離脱後、救世主となる勢いで台頭したガードの藤岡(左) 【小永吉陽子】

 アジアの中で日本が優れていたのはポイントガードだ。今大会はメーンの司令塔である吉田が国内合宿の頃から膝に違和感を抱えたまま大会に挑み、準々決勝のチャイニーズ・タイペイ戦(73−57)後にリタイアする事態に陥った。結果的に、準決勝以降の日本は「吉田の分も」と総戦力でギアチェンジを図るのだが、それ以前の試合でも吉田が万全ではないと見るや、ホーバスHCは吉田、町田瑠唯、藤岡麻菜美のうち2人を組ませる「2ガード」で乗り切った。

 2ガードはチームの平均身長が低くなる不利はあるが、逆に速さを全面に出すことができる。また、大会中盤からは藤岡が救世主となる勢いで台頭し、吉田の分をカバー。「プレスディフェンスからの速攻」という日本の軸となる攻防を、吉田以外のメンバーで組み立てられた収穫は大きい。また、決勝では町田が窮地を救った。準決勝の中国戦では藤岡がアシストや得点に躍動したが、36分出場したことで疲労があった。そこで3番手ガードに回っていた町田が機転の利くゲームメークで試合を組み立てたのだ。

 3人に共通して言えることは、オンボールスクリーン(ボールマンのディフェンダーにかけるスクリーン)を使いこなす技術が高かったことだ。ホーバスHCのオフェンスは高さのあるチームとも戦えるように、ズレを生み出す「ピック&ロール」(ボールマンに対するディフェンダーに壁となるスクリーンをかけることで、ディフェンスとのズレを生み出すコンビプレー)の追求でもある。リオ五輪では軸となる攻撃に吉田と渡嘉敷の2対2があったが、今年はそこまでの強烈な武器こそなくとも、ピック&ロールを速いトランジションゲームの中でやり続けるしつこさは出てきていた。

 スクリナーになるセンターの高田はこのように説明する。

「リオ五輪からスクリーンを使った戦術が増えてきて、日本のオフェンスは面白くなっていると思います。アジアでは中国やオーストラリアのような高さあるチームにハーフコートの展開では勝てないので、早めにスクリーンをかけて、ガード陣がスピードで切れ込んでいくことを意識してゲームを作りました」

 オーストラリアにも中国にも、ゲームを組み立てるポイントガードはいた。しかし3人はいなかった。機動力あるポイントガードを生かしたことで、日本は優位に立てたのだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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