リオで魅せた“ジャパンズウェイ” 世界を驚かせた日本の女子バスケ
女子バスケはアトランタ五輪以来、20年ぶりとなる決勝トーナメント出場を果たした 【Getty Images】
「メダルへの挑戦」をスローガンに掲げた今大会、世界ランク16位の日本は、10位のベラルーシ、7位のブラジル、4位のフランスから勝ち星を挙げる快進撃を見せた。世界ランク2位のオーストラリアには16点リードから逆転負けを喫したものの、アトランタ五輪以来となる20年ぶりの決勝トーナメント進出を果たし、ベスト8の成績を収めた。
平均身長では一番小さい平均177センチの国が大型で実績がある国を倒していく姿は世界に驚きを与え、その勇姿は観る者の心をつかんで離さなかった。その原動力となったのは、これまで以上にトランジション(攻防の切り替えの速さ)を前面に押し出したバスケットボールだった。
高速トランジションで世界女王に真っ向勝負
日本が見せた真っ向勝負は世界女王・米国に火をつけた 【Getty Images】
その答えは試合後すぐに判明した。日本戦で効果的な得点を決めたエンジェル・マコートリーはこの試合が持つ特別な意味をこう表現した。「コートの端から端まで走り回る日本を追いかけるのは本当に大変。でも、私たちはこういう試合を求めていたのです」
現在の女子バスケは、NBAの選手でメンバーを固める男子以上に、米国の“超1強”時代である。米国と対戦する場合は最初から勝負を捨て、経験を積む試合に充てるチームもある。そんな中で一番小さな国が女王を恐れず、自分たちの強みを真っ向からぶつけ、前半だけとはいえ競った戦いをした。いつ、どんな相手が来ても準備をして待ち構えている孤高の女王は、日本のようなエネルギーに満ちた手応えある相手との戦いを待ち望んでいたのだ。日本のチャレンジは米国の闘争心に火をつけ全面戦争となり、そして当たって砕けた結果、日本は64−110、46点という大差で散った。だから、純粋に面白い試合になったのだ。
本気になった米国を相手に、前半だけでもトランシジョンの速さで対抗できたのは日本だけである。日本のスタイルはもっともっと突き詰めていくことで、さらなる成長が見込めると確信できた大会だったのだ。
驚きを与えた要因は「失敗の歴史」を克服した準備の数々
五輪参加チームの中では平均身長で劣る日本。しかし、その機動力を生かした日本にしかできない“ジャパンズウェイ”を見せた 【Getty Images】
司令塔の吉田亜沙美と193センチの渡嘉敷来夢を中心とした速さと高さ、ディフェンス力に関しては間違いなく歴代最強だったが、懸念していたのは、足が止まった時に打開できるオフェンスと3ポイントの精度を持ち併せていなかったことだ。いくらアジアで連覇していても、脳裏をよぎるのは予選ラウンドで3連敗を喫した2年前の世界選手権だ。世界を相手にすると、日本の脚力を生かした戦いは封じ込まれてしまい、得点は平均54.3点にとどまった。3ポイントは生命線と言いながらも、その確率は30.8%で16位中10位。これでは勝てるわけがなかった。
その停滞した流れを変えるべく、チームを若返らせて臨んだのが、リオ五輪の切符をかけて挑んだ昨年のアジア選手権だ。掲げたテーマもズバリ「勢い」。日本はドライブが得意な本川紗奈生を加えてスピードをアップさせ、中国との決勝では85−50と35点差をつける驚くべき爆発力を見せた。この戦い方が現在のベースとなったことは言うまでもなく、手応えをつかんでリオへの準備期間に入ることになった。
ただし、この大会でも3ポイントの課題は克服できていなかった。決勝の中国戦だけは47.1%と当たっていたが、それ以外の主要ゲーム全体では19.2%と依然として低迷していた。
そこで今年、新たに試みたのが、WNBAでヘッドコーチ経験を持つコーリー・ゲインズ氏を招へいし、「スペーシングを広く使った連動性のあるオフェンス」を取り入れたことだ。大きく強調したのは間宮佑圭をワンセンターとして、渡嘉敷や高田真希を外から攻めさせ、確率の上がった2人のミドルシュートを引き出したことだ。さらに、吉田と渡嘉敷のピック&ロールで縦へと切れ込む大胆な動きを作り、また一つの動きを止められても、次の動きが始まる連動性を繰り返すことでオフェンスのバリエーションを増やしていったのだ。
このオフェンスに従来のトランジションを加えた運動量は「脚が止まった時に何もできない」といった選手の迷いを消し、ベラルーシやブラジルといったベテランチームが抱えるスタミナ不足の弱点を突くことにもつながった。また、トランジションオフェンスはクイックモーションで3ポイントを打つ栗原三佳や、状況判断に優れた高田真希や近藤楓らのシュート力とマッチ。五輪では平均得点を75点、3ポイントの確率を38.4%(全体4位)にまで上げ、得点力の大幅アップにつながった。
日本は見事なまでに課題を乗り越え、その先に進むチャレンジを見せてくれた。大会前の展望記事で示した通り、ベテランチームに対抗するには「驚きを見せる戦いができるか」、「成長の勢いが成熟を凌駕(りょうが)すること」、「ベラルーシ、ブラジルと戦う1、2戦目を絶対にものにすること」を条件にあげた。日本はいずれの課題もクリアしたばかりか、小さくても機動力を誇る日本にしかできない、“ジャパンズウェイ”を確立したと言える。