JX−ENEOSが女王たるゆえん Wリーグ9連覇を支えた勝者のメンタル
今季無敗でWリーグ9連覇を遂げたJX−ENEOSの強さの源はどこにあるのか 【加藤よしお】
高さと選手層だけでない強さ
V8までのJX−ENEOSも十分に強かった。しかし今シーズンは「手を抜くことや油断が一切なく、例年以上にプライドを感じる」(デンソーアイリス・高田真希)と相手チームが恐れるほど揺るぎない強さを見せた。今季、一層際立った強さの秘訣は何か。
今シーズン、指揮を執ったトム・ホーバスヘッドコーチ(HC)のモットーは「ハードワークは才能に勝る」であり、その意味をこのように話す。
「確かにJXにはタレントがいます。でも才能ある選手がハードワークをしなかったら、その才能はハードワークに負けてしまいます。良い選手がいてもそれだけでは優勝はできない。今日より明日、明日より明後日と、毎日うまくなることが私たちの目標です」
ホーバスHCの目指すハードワークは、新しいことへのチャレンジに現れている。これまでのJX−ENEOSは司令塔である吉田のスピードでリズムを作り、184センチの間宮や193センチの渡嘉敷の高さでねじ込むオフェンスが目立っていた。しかし今季はフォワードの宮澤がスリーポイントを積極的に打ち、かつリバウンドに向かうプレーを確立したことで、内外角をバランスよく展開するチームになった。3ポイントの確率こそが、他チームが女王に対抗できるすべであったが、外角シュートを備えたJX−ENEOSはすごみを増したのだ。また最大の武器は、ファイナルを通してチャレンジャーのトヨタよりも先に仕掛けたディフェンスだろう。
トヨタは豊富な運動量からスクリーンを駆使してスペースを作ることを持ち味としているが、宮澤をポイントガードにマッチアップさせることで、スクリーンをかけられてスイッチをしてもミスマッチが起こらず、主導権を一度も明け渡すことはなかった。そのスイッチディフェンスにしても、「毎試合やることが違うくらい変則的なルールがあり、選手たちも頭を使いながらやっていました」(宮澤)という徹底ぶりは、「難しかったけれどやっていて手応えがあって面白かった」という声が選手たちから上がっている。
また、今回のファイナルではエースの渡嘉敷が体調不良のため万全ではなかったが、それでも藤岡麻菜美、宮崎早織、石原愛子といったベンチメンバーの成長によって流れを加速させた。準備万端な上に選手層も厚い。死角がひとつも見当たらなかったのだ。
経験で得た勝者のメンタリティー
ホーバスHCは「ハードワークは才能に勝る」をモットーに掲げる 【加藤よしお】
そんな名門チームに危機はなかったのか? アトランタやアテネ五輪に出場した選手たちが引退したあとには世代交代を迎え、2004−05シーズンから2季連続で決勝進出を逃したこともある。そうした苦難を乗り越え、現在の黄金時代を築き上げてきたのが、現キャプテンの吉田や、今季はトヨタでファイナルに進出したライバル大神といったチームリーダーである。選手たちの経験の積み重ねこそが、まさしく勝者のメンタリティーを作り上げたといえよう。
しかし、時は1強時代。この現状は女子バスケ界の発展を妨げることにはならないだろうか。まず勝負事において、ライバルがいない状態では面白味に欠けるのではないか。
そうした思いを踏みとどまらせてくれるのは、やはり挑戦者たちだ。08−09シーズンからトヨタを4年連続ファイナルに導いたチョン・ヘイルHC(現シャンソン化粧品)は「本気でJXを倒そうとする指導者が増えることが日本の発展につながる」と言い続ける。昨季まで2季連続でファイナルに進出した富士通レッドウェーブのBT・テーブス前HCや、トヨタのドナルド・ベックHCも同様の思いだ。過去には、2季連続でファイナルに進出した日本航空ラビッツのイム・ヨンボ氏、シャンソン化粧品で10連覇ののちに富士通に初の栄冠をもたらした中川文一氏(現トヨタ紡織サンシャインラビッツ)の執念もすさまじかった。たとえ今は1強時代でも、扉をたたき続ける者はいる。