【ボクシング】田口良一、ライバルの前で気迫のKO劇 世界一の称号を得るため年末の統一戦へ

船橋真二郎

WBA世界ライトフライ級王者の田口良一は6度目の防衛に成功した 【写真は共同】

 熱い気持ちがほとばしった。常に先手を取って、勝ちにいくスタイルでいく――。試合前日の宣言通り、開始からフィニッシュに至るまで攻めの姿勢を貫いた。

 7月23日、東京・大田区総合体育館で行われたプロボクシングのWBA世界ライトフライ級タイトルマッチは、王者の田口良一(ワタナベ)が9ラウンド24秒TKO勝ち。指名挑戦者1位のロベルト・バレラ(コロンビア)を積極果敢に攻め落とし、6度目の防衛に成功した。

序盤から攻め続け挑戦者を圧倒

1回から攻め続けた田口は、得意の左ボディでバレラのスタミナを削っていった 【写真は共同】

 カギになったのは得意の左ボディだった。

 これまで世界戦のリングで向かい合ってきた対戦相手のほとんどが身長160センチ以下と小柄。ガードを固められると打ちどころを見出すのが難しかった。だが、今回は167センチの田口に対し、バレラは164センチで「ボディを打ちやすかった」と1ラウンドから自信を持って打ち込み、一気にペースを引き寄せた。

 リングサイドのライバルも田口がイメージ以上だったのは「序盤の攻め」と目をみはった。テレビのゲスト解説に招かれ、王座統一戦がクローズアップされるWBO世界ライトフライ級王者の田中恒成(畑中)である。

「尻上がりに調子を上げていくタイプだと思いますけど、1ラウンドのボディだったり、気迫のこもった攻めがKOにつながったんじゃないかなと思います。今日はいつも以上に気持ちが出ていて、それがボクシングにうまくリンクした試合でした」(田中)

 試合前から「8ラウンドでスタミナを全部使いきるくらいの気持ちだった。8ラウンドまでに決められたら決める。それくらいの勢いでいこう」と田口は腹を決めていた。もし倒しきれなくても「9ラウンドからの(残りの)4ラウンドは気持ちでいけばいい」と。

捉えどころのない相手にも正面突破

 田口が悔しい思いを引きずってきたのが昨年の大みそかの前戦。引き分けで辛くも5度目の防衛に成功したカルロス・カニサレス(ベネズエラ)戦だった。

「前回が不甲斐ない出来だったので、その汚名を払拭(ふっしょく)するためにも、自分の力を最初から見せていこうと思って。がんがん飛ばしていきました」

 当時16戦全勝13KOと強打者のイメージが強かったカニサレスに、途中から徹底して足を使われ、対応が後れた。ひたすら追いかける格好でずるずるとラウンドを重ねた末の引き分けだった。今回のバレラは試合によって右構え、左構えと変え、あるいは頻繁にスイッチを繰り返してくる。捉えどころのない相手に対し、いかに柔軟に対応できるか。田口が問われるのは対応力と考えていたが、出した答えはシンプルそのものだった。

 バレラ対策として右構えと左構え、両方のパートナーとスパーリングを重ねた。予想通り、1ラウンドからスイッチを駆使するバレラに惑わされず、ぐいぐい圧力をかけた。ロープからコーナーへと詰め、上下のコンビネーションで断続的に攻めたてた。やはり効果的だったのが要所のボディ。バレラの動きは何度も止まり、何度も腰を落とした。

 バレラは5ラウンドから主にサウスポースタンスで足を使い、圧力をかわし始める。飛ばし過ぎた影響か、手数の落ちた田口だったが、6ラウンド終盤には再びバレラを捕まえ、ペースは渡さない。7ラウンド、8ラウンドも攻め続け、バレラは露骨なホールディングで辛うじてダウンを拒むなど、落城寸前の状態に。9ラウンド開始早々、右を効かせてロープ際に追い、連打をまとめたところでレフェリーのラッセル・モラ(米国)が割って入った。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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