【ボクシング】田口良一が語る日本人4団体制覇の本音 誰が強いのか「絶対に統一戦やるべき」

船橋真二郎

快挙かもしれないが「王者の価値下がる」

WBAライトフライ級王者の田口良一が20日、21日の王座戦への胸中を明かす 【スポーツナビ】

 JPBA(日本プロボクシング協会)の要請を受け、JBC(日本ボクシングコミッション)が従来までのWBA(世界ボクシング協会)、WBC(世界ボクシング評議会)に続き、IBF(国際ボクシング連盟)、WBO(世界ボクシング機構)を承認し、正式に加盟してから4年。同じ階級の世界4団体の王座を日本人ボクサーが独占する可能性が出てきた。

 舞台となるのは全17階級で2番目に軽量のライトフライ級。5月20日、21日の両日、東京、名古屋で計6つの世界タイトルマッチが挙行されるが、そのうちの半分にあたる3つが同階級になるのである。

 まずは20日の愛知・武田テバオーシャンアリーナで、WBO王者の田中恒成(畑中)が16戦全KO勝利の同級1位アンヘル・アコスタ(プエルトリコ)を迎え、初防衛戦を行う。同日の東京・有明コロシアムでは、老かいなサウスポーのWBC王者ガニガン・ロペス(メキシコ)に同級4位の拳四朗(BMB)が挑戦。さらに翌日の有明コロシアムでは、IBF王者の八重樫東(大橋)が経験豊富な同級暫定王者ミラン・メリンド(フィリピン)との3度目の防衛戦(王座統一戦)に臨む。

 主要4団体のベルトを日本が占める――。快挙と言えば快挙なのだが、手放しでは喜べないところがあるのもまた事実。現在のライトフライ級で在位期間が約2年半と最も長く、WBA王座を5度防衛している田口良一(ワタナベ)は複雑な胸中を明かす。
「話題性はあるし、注目されるのはいいこと。ただ、前よりチャンピオンの価値が下がったと言われるし、正直、どこかで『自分は世界一』と言えない気持ちがあります。日本の4選手が(同時に)チャンピオンになれば、なおさらです」

 だからこそ、田口は「絶対に統一戦をやるべき」と主張する。同じ階級でチャンピオンと名のつく日本人が並び立てば、心が波立つのはボクサーとして当然だろう。
「見ている人からしたら、『(日本人王者が)こんなにいても』となるだろうし、『誰が一番強いの?』という感じだと思う。自分もそうです」

 だが、あくまで現時点では仮定の話。3人がそろって勝利することが条件となる。それでは田口はライバルたちをどう見ているのか。

田口が予想する3大世界戦

八重樫、拳四朗、田中というライバルたちをどう見ているか 【スポーツナビ】

 世界3階級制覇の34歳のベテラン八重樫。WBAミニマム級王者時代の5年前には、当時WBC同級王者だった井岡一翔(井岡)と日本ボクシング史上初、これまで唯一の王座統一戦を経験。WBCフライ級王者時代の3年前には、のちの世界4階級制覇王者で現在の軽量級を代表する存在のひとりであるローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の挑戦を受けた。いずれも敗れはしたものの、実績では頭ひとつ抜けている。

 強豪相手にも果敢に打ち合いを挑み、“激闘王”の異名をとる八重樫に対しては「人間的にも好き」と言うように以前から敬意を隠さず、プロとしての姿勢に共感を抱いてきた。スパーリング経験も踏まえ、メリンド戦は相手の出方や状況に応じて戦い方を使い分ける八重樫次第で展開が変わるのではないかと田口は言う。
「八重樫さんは試合によって、インファイトをしたり、足を使ったりするので、まったく展開は想像できないですね。エドガル・ソーサ(メキシコ)戦(フライ級王座の2度目の防衛戦)のように足を止めずに出入りに徹したら、難なく勝つと思いますけど、メリンドも場数を踏んでいる強敵です。打ち合う場面もあるだろうし、面白い試合になると思います」

 プロに転向してから2年半、10戦目で初の世界挑戦に臨む25歳の拳四朗。京都・宇治の所属ジムを主宰する父の寺地永会長が元東洋太平洋ライトヘビー級、日本ミドル級王者の2世ボクサーだが、ボクシングを始めた理由が「勉強が苦手」で、スポーツ推薦で高校に進学するためだったというから面白い。奈良朱雀高3年時にインターハイ準優勝、国体3位。いずれも2学年下の井上尚弥(大橋)にタイトルを阻まれたが、関西大では国体で優勝した。

 プロでは「3年以内に世界」を掲げて、WBCユース、日本、東洋太平洋と順調にタイトルをコレクション。ポジショニングとバランス感覚に優れ、ときに相打ちのタイミングで勇敢にカウンターを狙う度胸の良さを備えるが、拳四朗について手合わせした誰もが口にするように田口も攻撃の起点となる左ジャブに強い印象を持っている。
「スパーリングで実際に体感して、自分の中ではナンバー1と言ってもいいくらい拳四朗選手はジャブの能力が飛び抜けて高い。そんなにリーチはないんですけど、ポジショニングが抜群なので、なぜかもらってしまうんです。(サウスポー相手に)ジャブをうまく使えれば、普通に勝機はあるし、正直、今度の3試合で勝率は一番高いと思っています」

 すでに世界2階級制覇を果たしている21歳の田中。高校4冠から岐阜・中京高在学中の4年前にプロデビューし、4戦目で東洋太平洋ミニマム級、5戦目でWBOミニマム級王者と一足飛びで頂点まで駆け上がった。昨年の大みそかには8戦目で2階級制覇を達成。その記録以上に強豪モイセス・フエンテス(メキシコ)に対し、ほとんど何もさせないまま5ラウンドでストップした圧倒的パフォーマンスで、その存在感をぐんと増している。

 実は田口と田中は、田口が防衛戦、田中がライトフライ級王座挑戦を年末に控えた昨年秋、「勝ったら統一戦をやろう」と直接、約束したこともある相思相愛の仲。田口が日本王者時代の3年前に“怪物”井上尚弥の挑戦を受け、判定負けながら奮闘した一戦を会場で観戦して、「そのときから『この人とやりたい』と思っていた」と田中が振り返れば、田中がミニマム級王者時代の2年前、お互いに練習も兼ねて訪れていたフィリピンで初めて邂逅(かいこう)したときから、「もしかしたら『いつか、やることになるんじゃないか』という感覚があった」と田口も述懐し、ともに運命を感じている両者なのである。

 3人の中では唯一、スパーリング経験がないが、万能型でスピードに秀でた田中に対しては田口も「スピードが圧倒的に速い」の評価。全KO勝ちのパーフェクトレコードを誇る挑戦者を田中が「どう崩すのかに注目している」という。
「アコスタは荒々しさもあり、思い切りの良さがあるのでパンチは侮れない。でも、田中選手は(速いステップワークで)同じところにいないので、当てるのは難しい。判定でも翻弄して勝つと思うし、ミニマムからライトフライに上げたことで、力強さが増しているのでKO決着も十分あると思います」

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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