日本勢が世界を牽引するライトフライ級 田口vs.田中の統一戦機運も高まるか

船橋真二郎

主要4団体中3つの世界戦が日本で開催

ミニマム級から階級を上げ、2階級制覇に臨む田中恒成(右) 【写真は共同】

 今年もプロボクシングの世界戦が年末12月30日、31日に集中開催される。何事もなければ過去最高となる9つの世界戦が行われるはずだったが、井上拓真(大橋)、大森将平(ウォズ)の世界初挑戦が残念ながら中止になってしまった。それでも東京、岐阜、京都の3都市4会場で7つは昨年と同数で、2014年の8つに次いで多い。見どころはそれぞれにあるのだが、7つのうちの3つが同じライトフライ級になることも注目点のひとつに挙げたい。

 まず30日の東京・有明コロシアムではIBF世界ライトフライ級王者の八重樫東(大橋)が、翌31日の東京・大田区総合体育館ではWBA世界ライトフライ級王者の田口良一(ワタナベ)がそれぞれ防衛戦を迎え、さらに同じ31日の岐阜メモリアルセンター・で愛ドームでは前WBO世界ミニマム級王者の田中恒成(畑中)がWBO世界ライトフライ級王座決定戦に臨む。つまり3人がそろって勝利すれば、世界主要4団体のうちの3つまでを日本人が占めることになるのである。

 昨年末も八重樫がミニマム級、フライ級に続き、3階級目のライトフライ級でIBF王者となり、田口がWBA王座の防衛に成功したことで、11月にWBC世界ライトフライ級王座を奪取していた木村悠(帝拳=引退)と併せ、3人の日本人王者が並立する状態になった。こうなると、どうしてもクローズアップされてくるのが王座統一戦になるのだが、実績で他の2人を大きく上回る八重樫が消極的だったことと、木村が初防衛戦で早々と王座から陥落したこともあって、機運は高まらなかった。

田口は「お互い勝ったらやろう」と提案

田口(右)は田中に「お互いに勝ったらやろう」と話している 【写真は共同】

 では、今回はどうか。前回とは状況が異なるのが、田中が階級を上げた当初から田口に挑戦希望を表明し、ラブコールを送ってきた点になる。対する田口も「日本人対決は盛り上がると思うし、自分は誰とでもやる」と応じてきた。この11月には名古屋からスパーリング相手を求めて、東京に滞在していた田中と田口がワタナベジムで接触。スパーリングでの直接対決は実現しなかったが、「お互いに勝ったら、(統一戦を)やろうと話した」(田口)という。

 近年のライトフライ級ではWBO王座を9度防衛していたドニー・ニエテス(フィリピン)が一歩抜けた存在だった。そのニエテスが今秋、フライ級に階級を上げ、階級ベストの称号は宙に浮いた印象がある。海外サイトが独自に定める階級別のランキングではライトフライ級での実績を考慮して、田口を1位に推すケースがほとんどだが、田口自身が「もっと評価を上げたい」と話しているようにニエテス不在後の階級ベストの証明はまだ果たされていない。

 田口と田中が先鞭をつければ、八重樫も無視できなくなるかもしれないが、もちろん全員が勝たなければ、何も始まらないのは言うまでもない。各世界戦の展望と、その後の予想される動向について整理してみたい。

紆余曲折あった八重樫の対戦相手

紆余曲折あり挑戦者が決まった八重樫(左) 【写真は共同】

 八重樫の挑戦者決定までには紆余曲折(うよきょくせつ)があった。5月の初防衛戦の前に八重樫が左肩を負傷し、しばらく試合間隔が空く見込みになったことでIBFが暫定王座の設置を決定。決定戦の日程が11月26日に決まり、年末の復帰を計画していた八重樫には暫定王者以外の挑戦者は認めないとIBFが譲らなかった。だが、暫定王者となったミラン・メリンド(フィリピン)が試合で鼻を負傷。年末の出場が難しくなり、IBFの承認を経て最終的にサマートレック・ゴーキャットジム(タイ)に決まったのは本番まで1カ月を切った12月2日だった。

 サマートレックは2年前の9月、当時のWBCライトフライ級王者だった井上尚弥(大橋)の初防衛戦の挑戦者として来日。4回と6回にダウンを奪われるなど、一方的な展開になったものの、11回まで粘り、最後はレフェリーストップで敗れている。好戦的なファイター型で「結局は激闘になると思う」と大橋秀行会長は予想するが、負傷明けの八重樫が掲げるテーマは「安定感」。すっかり“激闘王”の呼び名が定着した八重樫の気質を考えても、打ち合いも辞さないはずだが、出入りしながら、要所に見せ場をつくろうと考えているのではないか。

 来年2月で34歳になる八重樫は「年齢を重ねてきて、試合に対する気持ちの比重がすごく大きくなってきている。ひとつひとつ丁寧にしっかり取り組んでいきたいという思いがある」と語り、残された時間は多くないという意識は強い。サマートレック戦をクリアすれば、次戦はIBFから90日以内の対戦を指示されているメリンド戦に向かうのが濃厚。この暫定王者との王座統一戦にも勝利すれば、その後はある程度、挑戦者を自由に選ぶことができる。数々の印象的なファイトを繰り広げ、ジムのみならず、日本ボクシング界への貢献度も高い功労者に対し、大橋会長が相応しい道を用意するはずである。

1/2ページ

著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント