“静寂”に秘められたゴールボールの魅力 見えない世界で行われる高度な駆け引き

スポーツナビ

目隠しを付けてプレーするゴールボールは、ボールや味方・相手の位置を「音」で判別するため、静かな空間が必要不可欠となる 【スポーツナビ】

「クワイエット・プリーズ」という審判の掛け声が場内に響くと、それまで歓声を上げていた観客が一斉に沈黙――静寂の中で、選手の息遣い、足音、そして、ボールの弾む音が選手たちの緊張感とともに、観客の耳に伝わってくる。

 パラスポーツ独自の競技「ゴールボール」。この競技の魅力は、“静寂”に秘められていると言っても過言ではない。

 スポーツナビは、陸上・十種競技の元日本チャンピオンでタレントの武井壮さんがゴールボールを体験すると聞き、NHKの撮影現場に潜入。ゴールボールという競技の魅力に迫った。(武井さんが語るゴールボールの魅力・奥深さは7月24日掲載予定)

制限される「音」

 視覚障がい者のために考案されたゴールボールは、3対3で鈴の入ったバスケットボール大のボールを互いに投げ合い、幅9メートル、高さ1.3メートルのゴールに入った得点を狙うチームスポーツだ。障がいの重さに関わらず、すべてのプレーヤーがスキー用ゴーグルのような形状の目隠し「アイシェード」を付け、全盲状態となってプレーするため、選手たちは「音」によって、バレーボールと同じ広さのコートの中で、自分や味方、相手、そしてボールの位置を把握しなければならない。つまり、静かでなければ、選手は攻守でボールの位置が分からず、スポーツとして成り立たない。そのため、試合中の声は厳しく制限され、観客は試合中に声援を送ることが禁止されているほか、選手やコーチも声を発することが制限されている。

 文字にすると、難しさがイメージしづらいが、目隠しをした状態で、すいか割りが容易にできないことを想像してほしい。さらに相手がいるスポーツ。そこには、音を消した移動攻撃や回転をかけた変化球攻撃、フェイント攻撃、わざと投球者以外のプレーヤーが音を出すノイズなど、化かし合い・駆け引きが行われる。人間は視覚を通じて8割の情報を得ていると言われるが、情報を得る要の視覚を封じた中で、相手の動きを予測し、ボールの軌道にすばやく反応するため、高い集中力が必要となるほか、守備の際は体を投げ出してボールをブロックするなど、見た目以上に豊富な運動量が求められる。そして、何よりゴールを奪うため、戦略性が重要となる競技なのだ。

女子はロンドン金も近年は苦戦

市川女子日本代表HCが今後の日本の軸と期待する、欠端(左)と若杉 【スポーツナビ】

 ゴールボールでは、女子日本代表が2012年ロンドンパラリンピックにおいて、日本のパラスポーツ史上初めて団体競技で金メダルを獲得するなど、世界のトップで実績を挙げている。2連覇を狙ったリオデジャネイロパラリンピックでは、準々決勝で中国に敗れ、涙を流した。諸外国はロンドン後、日本が世界に誇る強固な守備を徹底して研究。また、ボール素材の変更に伴うバウンドボールの急増によって、苦戦を強いられた結果だった。

 しかし、手応えもつかんだ。女子チームを率いる市川喬一ヘッドコーチ(HC)は「失点数を見ても、ディフェンス力はリオ出場チームで上位でした。ディフェンス力だけなら、十分金メダルを獲れる力があったと思っています。ですので、攻撃力の強化が不可欠。オフェンスの要である欠端(瑛子)、若杉(遥)、天摩(由貴)が中心になりつつある」と若手メンバーの成長に目を細める。

 20年東京パラリンピックで王座奪還を目指す女子チームは、まず18年世界選手権の予選となるアジア・パシフィック大会(8月19〜27日)での優勝を目指している。「守備も再構築していて、新しい守備体系も作りつつあるので、しっかり準備して臨みたい」(市川HC)と、リオで敗れた中国にリベンジして再度世界の頂に登る考えだ。

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