リオへ崖っぷちのロンドン女王・ゴールボール代表、悔しさを力に変えて

瀬長あすか

鉄壁のディフェンスが日本の武器

ディフェンス力を強みにパラリンピック女王に輝いた日本女子。ロンドン後も、ディフェンス重視が特徴のチームを継続している 【スポーツナビ】

 3年前の2012年、ロンドンパラリンピック。ゴールボール女子日本代表は、決勝の舞台で、世界ランキング1位の中国から先制点をもぎ取ると、鉄壁の守備で守りきって1‐0で勝利。夏冬を通して、日本パラリンピックの団体競技史上初の金メダルをもたらした。

 視覚障がい者のためのゴールボールは、鈴の入ったバスケットボール大のボールを互いに投げ合い、得点を狙うチームスポーツだ。金メダルを獲得したとはいえ、パラリンピック独自のこの競技をご存じない方も多いだろう。

 コート上の3選手は「アイシェード」と呼ばれる目隠しを装着し、全盲状態でプレーする。音を消した移動攻撃、相手の体にボールを当てたり、守備を飛び越えたりしてゴールを狙う力強いスローを繰り出すなど、多彩な攻撃が展開される。それに対し、選手は感覚を研ぎすましてボールの出所を読み、体を横に投げ出して自陣のゴールを守るのだ。

(映像提供:日本障がい者スポーツ協会、制作:エックスワン)
 パラリンピック女王になった日本の強みはディフェンス力だ。体格の良い欧米の選手に比べて小柄な日本選手は、真ん中の選手が前に出て三角形を作る一般的な陣形ではなく、3人が前に出て「一文字のディフェンス」を敷き、全員で守る。ロンドンパラリンピックで守りの要として活躍した浦田理恵は「日本は、一発で仕留めるボールがなく、大量得点は期待できない。だからこそ、しっかりゼロに抑えることが自分たちの勝因になる」と話しており、ロンドン後のチームでもディフェンス重視を継続している。

日本の低迷と世界の進化

 日本は2016年リオデジャネイロパラリンピックでの連覇を目標に掲げている。ロンドンでキャプテンを務めていた小宮正江は引退したが、ロンドン後は、国際試合の機会は格段に増え、選手たちの競技に専念できる環境も整い、2020年東京パラリンピック開催も決まり、チームには追い風が吹いているように見えた。

 14年は1月にモントリオールオープン優勝、6月にアジアカップ優勝と弾みをつけた。そして、7月には3位以上に16年リオパラリンピックの出場権が与えられる世界選手権(フィンランド)に出場。他競技に先駆けて出場権を決めるか期待されたが、結果は4位に終わり、パラリンピック出場権は得られなかった。

 その後、世界のディフェンスレベルも向上し、“点を取られたら取り返す”攻撃力に乏しい日本は苦戦が続く。当然、強豪国から徹底した分析もされる。10月に行われたアジアパラ競技大会(韓国・仁川)は3位。ヘッドコーチの退任などチームの変化もあった。そして、迎えた今年5月の視覚障がい者スポーツの世界大会「IBSAワールドゲームズ」(韓国・ソウル)で日本は6位に沈む。チームは11月のアジア・パシフィック選手権(中国・杭州)で優勝しなければ、リオパラリンピックに出場さえできない崖っぷちの状態にある。

「『今なぜ日本がこんな位置に?』と、他の国から言われるたびにすごく悔しい。日本は強豪国に勝つ力があるし、リオの切符を取れる力はある。勝負のあやでこうなっているだけで……。いずれにせよ11月に時は迫っている。なんとかこの状況を打破したい」

 今年1月から指揮を執る市川喬一ヘッドコーチ(HC)は、苦しい胸の内を打ち明けた。

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著者プロフィール

1980年生まれ。制作会社で雑誌・広報紙などを手がけた後、フリーランスの編集者兼ライターに。2003年に見たブラインドサッカーに魅了され、04年アテネパラリンピックから本格的に障害者スポーツの取材を開始。10年のウィルチェアーラグビー世界選手権(カナダ)などを取材

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