「シンジラレナ〜イ」から10年――韓国に渡ったヒルマン監督の信念

室井昌也

日韓米の3リーグで監督

現在、韓国球界のSKで指揮を取るヒルマン監督。日米韓の3リーグで監督を務めるのはヒルマンが初めて 【ストライク・ゾーン】

 2003年から5年間、北海道日本ハムで指揮を執り、退任後は米大リーグ・ロイヤルズの監督に就任するなど、米球界で活動していたトレイ・ヒルマン(54歳)。そのヒルマンは今季から韓国プロ野球・SKワイバーンズで監督を任されている。日米韓の3リーグで監督を務めるのはヒルマンが初めてだ。

 日本ハムの北海道移転3年目(06年)にチームを日本一に導き、翌年もリーグ優勝を果たした実績のある指揮官は、再び訪れたアジアの地でどんなリーダーシップを見せているのか。

SKにもたらした“明るさ”

ホーム、ビジターに関わらず、試合前はほぼ打撃投手を買って出ている 【ストライク・ゾーン】

 試合開始3時間前。ヒルマン監督は練習中の選手たちに声をかけて回る。時に大声を上げナインを笑わせ、キャッチボールに加わってはちょっかいを出すなどコミュニケーションを欠かさない。そして彼はホーム、ビジターゲームを問わず、ほぼ毎試合で打撃投手を買って出ている。30度を超える気温の下でも、涼しげな表情で約100球を投げ込むヒルマン監督。彼が監督就任以来、SKにもたらした一番の変化、それは“明るさ”だ。

 古株の内野手、羅州煥(33歳)はこう話す。

「選手は大概、監督の機嫌を気にするものだけど、ヒルマン監督が来てからそれがなくなった。チームはいつも陽気で、どの選手も委縮することなく実力以上の力を発揮している。新しい監督が来ると若い選手に機会が増えて、ベテランは出られなくなることも多いけどそれもない。ヒルマン監督はみんなにチャンスをくれるからね」

 SKは85試合の時点で83通りの先発オーダーを組んだ。対戦相手や選手の状態によって打線を組み替え、それによりベンチスタートとなった主力選手には、休養の必要性やデータ上の理由を説明し、納得させた上でスタメンを外している。

 ヒルマン監督が韓国での初めてのシーズンで、重要視していることは何か。

「チーム内に勝てる雰囲気をつくることを一番に考えている。チームのムードが試合の結果に与える影響は非常に大きいからだ。それは選手に限ったことではない。スタッフや球団フロントのみんなが球場に幸せな気持ちで来ることが、チームの勝利には欠かすことが出来ないと思っている」

エース不在で若手を抜てき

前半戦を3位で終えたヒルマン監督。「信じる野球」を信念に韓国での飛躍の再来を目指している 【ストライク・ゾーン】

 今年のSKの戦力的な一番の特徴に一発のある打線がある。昨季の本塁打王・崔廷(30歳)の31本を筆頭に10本塁打以上放っている選手が6人。チーム本塁打数は2位の99本を大きく上回る153本を記録している。その一方で難があるのが投手陣だ。

 投手事情が厳しい最大の理由に国際大会でも名をはせた左腕、エースの金廣鉉(28歳)の不在がある。金廣鉉は昨年12月に左ひじじん帯の接合手術を受け、現在はリハビリ中だ。ヒルマン監督はその金廣鉉の穴を埋める存在として、1人の投手に期待を寄せた。6年目の右腕・文昇元(27歳)だ。

 文昇元は140キロ台後半の直球を主体に多彩な変化球を持つ引き出しの多い投手だが、昨年までの成績はわずか4勝。ヒルマン監督はこの文昇元を先発4番手に指名した。文昇元はここまで17試合3勝6敗、防御率4.56という成績ではあるが、ヒルマン監督は先発投手として辛抱強く起用し続けている。ヒルマン監督は文昇元について「いい投球をしたい、勝ちたいという強い思いを持ち続けていて、常に努力を欠かすことなく取り組んでいる。彼のその姿をわれわれは信頼してバックアップしている」と語った。

 その文昇元はヒルマン監督の信頼をしっかりと受け止めていた。

「監督にはシーズン前から”先発として期待している”と言われていて、開幕後、2試合続けて序盤にKOされた後も、”おまえを信じている”と5分間ずっと同じ言葉をかけ続けてくれた。これからは何とか結果で応えていきたいです」

前半戦は勝率5割5分2厘の3位

 昨年10球団中の6位だったSKは、今年巻き返しを狙うも大きな戦力補強はなく、またエース・金廣鉉を欠く中で開幕から6連敗でスタートした。しかしその後は長打力のある打線の力もあり、現在の成績は48勝39敗1分け、勝率5割5分2厘。首位と10ゲーム差の3位で前半戦を折り返している。

 ヒルマン監督はこの順位について、「韓国のリーグやチームの実力をまだ完全に把握できていないので、事前に順位や成績を予測していなかった。しかしウチのチームが前半戦を3位で終えるとは誰も想像していなかったと思うよ」と笑みを浮かべた。

「シンジラレナーイ」の名言が流行語となってから10年余り。ヒルマン監督は「信じる野球」を信念に韓国での飛躍の再来を目指している。

(成績は7月13日終了現在。韓国の公式戦は144試合制)
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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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