変化を遂げた鹿島がセビージャを迎え撃つ 決戦を前に、昌子と中村が抱く思い

田中滋

昌子「いい意味でも悪い意味でも注目される」

C・ロナウド(左)ら世界的なFWと対峙し評価を高めた昌子は、セビージャとの決戦に向け表情を引き締める 【Getty Images】

 あれからどれだけ成長することができたのか。世界との距離感を知ることができる機会が再び巡ってきた。

 7月22日に行われる「Jリーグワールドチャレンジ」で、2016−17シーズンのリーガ・エスパニョーラにおいて、レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリーに次ぐ4位の成績を収めたスペインの強豪・セビージャと鹿島アントラーズが対戦する。

 2016年12月、鹿島はクラブワールドカップ(W杯)に開催国枠で出場し、ダークホースながら強豪クラブを次々と撃破して決勝に進出。その決勝でもレアル・マドリーと延長戦までもつれる大熱戦を演じた。その記憶が薄れる間もなく、欧州のトップレベルを体感できることは、チームや選手の成長を推し量るために貴重な機会となるだろう。

 クリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマという世界的なFWと対峙(たいじ)し、同等に戦えたことから一気に株をあげた昌子源は「いい意味でも悪い意味でもレアルとやっていることで注目される」と表情を引き締める。

「レアルと延長戦までいったのに、セビージャに惨敗したら『クラブW杯は何だったんだ』と言われてしまう。どういう選手がいて、どういうサッカーでくるのか分からない難しさもあるけれど、(欧州強豪クラブとの)試合ができるのは浦和(レッズ)さんとうちだけ(※編注:17日に行われるワールドマッチでは、セレッソ大阪がセビージャと対戦する)。そういう試合を海外まで行かずに日本でできるのはありがたい。正々堂々と戦いたいと思います」

 昨季も昌子は、選ばれたチームしか試合ができないという喜びをかみ締める。チャンピオンシップ終了後にクラブW杯、天皇杯と厳しい連戦が続き、疲労が蓄積していく日々の中で、それだけ多くの試合ができることを力に変えていた。セビージャ戦が行われる日はリーグ戦もなく、他クラブの選手も自分たちの戦いぶりを見てくれるかもしれない――。注目を集める試合ができることに感謝をしつつ、しっかり戦うことを誓った。

セビージャとの対戦を心待ちにする中村充孝

自身の意識の変化と大岩監督の投げ掛けが相乗効果となり、中村(左)のプレーは見違えるように変化している 【Getty Images】

 昌子のようにクラブW杯の決勝の夜に活躍した選手もいれば、ピッチの外から眺めるしかなかった選手もいる。「完全にファンの1人やった」と振り返ったのは中村充孝。試合後、C・ロナウドらと一緒に記念写真に収まったのが、あの大会で最も鮮やかに残る記憶だった。

 もともと他の選手の試合や映像には何も興味を持っていなかった中村。しかし、自分自身を向上させるために情報収集をするなかで、海外の選手たちははるかにハードなトレーニングを行っていることを知る。

 レアル・マドリーをまとめるジネディーヌ・ジダン監督のやり方についても、初めは選手もいやいや従っていたのが、自然にこなすようになり、チームの和が守られるようになったことが分かった。

「それはジダンがすごいわけじゃない。選手に余裕があるからそうなるんや」

 見えている事象も少し視点を変えて考えてみると、自身にも生かせることは数多くあることに気が付いた。そうして興味の枠は広がっていった。
 
 5月末から鹿島を率いているのは石井正忠前監督からのバトンを受け継いだ大岩剛監督だ。大岩監督は「走るからこそテクニックが生きて、止まることが生きる。走るからこそ、自分の攻撃のバリエーションが増える」と、技巧に優れた選手ほど走り続けること、動き続けることを求めた。実は、監督のそうした言葉は「半分は彼に言っているようなもの」と、中村に対して投げ掛けているものでもあったのだ。

 自身の意識の変革と、監督の投げ掛けが相乗効果となり、中村のプレーは見違えるように変化している。

 苦手だった走ることについても「海外ではもっとやっている。(ジョゼップ・)グアルディオラのチームはすごいらしい。スタメンもサブも関係なくハードなフィジカルトレーニングをやっている。それでうちらがやらなかったら、その差は一向に縮まらない」と、前向きに取り組んでいる。

 だからこそ、セビージャとの一戦は自分がどこまで通用するのか楽しみなのだという。

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著者プロフィール

1975年5月14日、東京生まれ。上智大学文学部哲学科を卒業。現在、『J'sGOAL』、『EL GOLAZO』で鹿島アントラーズ担当記者として取材活動を行う。著書に『世界一に迫った日』など。

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