大潮宝塚をシャケ(避け)トオル? 「競馬巴投げ!第147回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

「前売りですか? 後売りですか?」

[写真3]シュヴァルグラン 【写真:乗峯栄一】

 ぼくの初めての馬券購入は昭和51年、トウショウボーイ・テンポイントの出たダービーのときである。友人が買ってきてくれた投票券を「へえ、これが馬券というものか」としげしげ眺めたが、そこに「前売り」と書いてあったのに驚いた。「え? 馬券てのは前売りに決まってるんじゃないのか」と何度も首をひねった。

「ハワイまで何時間かかりますか?」と聞かれたら「飛ぶ飛行機ですか? じっとしている飛行機ですか?」と反問するという、この呼吸が大事だ。

「ここ、宝塚記念の馬券買えますか?」と競馬初心者が聞いてきたら、阪神競馬場の案内おねえさん、ぐっと顔を近づけて「前売りですか? 後売りですか?」と小声で聞く。

「え? どういうことですか?」と初心者がドギマギしたら要注意だ。この初心者はまだ前提を把握していない可能性がある。

 馬券には二種類ある。

○予想して的中させる馬券

○ひとをだまくらかして的中させる馬券

 これが前提だ。

「そうですか、後売りですか……」とおねえさんはしばらく俯いて悩む。「後売りはねえ、わたしたちも初心者の人にはあまりお勧めできないんですけどね……、まあ、とりあえずこちらへ」とおねえさんはフロアの端の黒カーテンで仕切られた“後売り特別室”に案内する。

「後売りは一律百万円、事前供託していただきます。投票は三連単一点のみでレース後一分以内の投票、時間遅れはすべて供託金没収となります」と黒服の“後売り”ディーラーが事務的に説明する。

“後売り特別室”の客たちは目を皿のようにしてレースを見つめる。ゴール時の大歓声にも耳を貸さない。

 後売り馬券はめったに外れが出ない。外れが出なければ元返しだ。ちゃんとレースを見ていなかったり、投票用紙に書き間違いする人間が出て初めて配当にありつける。頭を抱えている人間がいたら、それは絶好のチャンスだ。手負いのガゼルに群がるハイエナたちのように“頭抱え人間”をおじさんたちがぐるっと取り囲む。

 ひとをだまくらかして的中させる馬券[後売り馬券]も密かに売られていると噂を聞いている。

それでもキタサンは勝つだろうか

[写真4]レインボーライン 【写真:乗峯栄一】

 高畑充希は「反対側から馬が来てビックリした」と言っているが、そういうことは競馬には往々にしてある。

 雨、風はもちろん大きな影響を与えるが、磁場、月の引力(=満ち潮、引き潮の潮汐力)、太平洋プレートの移動、グリーンランドの南から沈降し、アフリカ南端から北太平洋アリューシャン列島にまで届く深層海流の影響、それら一つ一つは小さな影響かもしれないが、時として、それらが重なることがある。

 どんなにいままで強いキタサンブラックであっても、全部重なって一列に並べば、それら自然の力には対抗できない。特に今週土曜から日曜に掛けては「大潮」だ。月の引力が最大になる。大潮に大雨が加われば、いままでにない力を必要とする。さて、それでもキタサンは勝つだろうか。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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