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日本記録“9秒台”突入への機は熟した
男子100mの記録変遷を振り返る
今週末に陸上の日本選手権が開幕。注目の男子100mでは、勝者とともに、その記録にも注目が集まる
今週末に陸上の日本選手権が開幕。注目の男子100mでは、勝者とともに、その記録にも注目が集まる【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 1911年の初代日本記録から100年あまり。陸上の男子100m、日本新記録「9秒台」への挑戦の舞台は第101回日本選手権へ――。


「日本人初の9秒台」への挑戦の舞台は、大阪・ヤンマースタジアム長居(長居競技場)での日本選手権に移ることになった。それに関連し、男子100mの記録についてまとめてみた。

初代世界記録と初代日本記録

現在の日本記録は伊東浩司が1998年に記録した10秒00。今回の日本選手権でその記録を破る選手は!?
現在の日本記録は伊東浩司が1998年に記録した10秒00。今回の日本選手権でその記録を破る選手は!?【写真:川窪隆一/アフロスポーツ】

 現在の男子100mの世界記録が「9秒58」、日本記録が「10秒00」であることは多くの方が知っているだろう。では、「初代世界記録」と「初代日本記録」が何秒だったかはご存じだろうか?


 正解は世界記録が1912年の「10秒6」で日本記録が1911年の「12秒0」である。


 もちろん、現在のような100分の1秒単位の電動計時(写真判定)による計測ではなく、ストップウォッチを人間が押す手動計時で、5分の1秒単位のタイムだった。


 電動計時と手動計時の誤差は約0秒2。よって、手動の10秒6と12秒0は、電動計時なら10秒8台、12秒2台くらいの記録となる。


 10秒8台は、このところの五輪や世界選手権では女子のメダル争いくらいのレベル。12秒2台は全日本中学の女子ファイナリストくらいだろう。100年と少し前の初代世界記録と初代日本記録は、今ではそれくらいのレベルだった。


 とはいっても、当時のトラックは土。スターティングブロックもなく、トラックに穴を掘っていた。キックの力がしっかりと地面に伝えられる現在のようなオールウェザー・トラックになったのが1968年のメキシコ五輪から。100年前とは比較にならないくらいスパイクシューズも改良され、記録の短縮に大きく貢献していることは間違いないはずだ。


 そんなことで、手動計時の初代世界記録10秒6と初代日本記録12秒0を、電動計時の10秒8台や12秒2台に換算して、現在の電動計時のタイムと単純に比較するのは、昔のアスリートには気の毒な話かもしれない。


 とはいえ、100年間で世界記録は1秒以上、日本記録は2秒以上短縮されてきたことは事実だ。

世界記録と日本記録の進歩

20年以上敗れなかった9秒9台の壁を打ち破ったのが、世界陸上東京大会でのカール・ルイスだった
20年以上敗れなかった9秒9台の壁を打ち破ったのが、世界陸上東京大会でのカール・ルイスだった【写真:アフロ】

 以下で、この100年あまりで、世界記録と日本記録がどのように進歩してきたかを振り返ってみる。


【世界記録】

<手動計時>

10秒6 1912年7月6日〜1921年4月23日=8年9カ月17日

10秒4 1921年4月23日〜1932年8月9日=11年3カ月17日

10秒3 1932年8月9日〜1936年6月20日=3年11カ月11日

10秒2 1936年6月20日〜1956年8月3日=20年1カ月14日

10秒1 1956年8月3日〜1960年6月21日=3年10カ月18日

10秒0 1960年6月21日〜1968年6月20日=7年11カ月30日

9秒9 1968年6月20日〜

※1975年から電動計時のみを過去に遡及して世界記録として公認


<電動計時>

9秒9台 1968年10月14日〜1991年8月25日=22年10カ月11日

9秒8台 1991年8月25日〜1999年6月16日=7年9カ月22日

9秒7台 1999年6月16日〜2008年8月16日=9年2カ月0日

9秒6台 2008年8月16日〜2009年8月16日=1年0カ月0日

9秒5台 2009年8月16日〜


【日本記録】

<手動計時>

12秒0 1911年11月19日〜1915年10月21日=4年11カ月2日

11秒5 1915年10月21日〜1918年11月3日=3年0カ月13日

11秒4 1918年11月3日〜1921年11月13日=3年0カ月10日

11秒2 1921年11月13日〜1922年4月23日=5カ月10日

11秒0 1922年4月23日〜1925年11月15日=3年6カ月22日

10秒8 1925年11月15日〜1927年10月9日=1年10カ月24日

10秒7 1927年10月9日〜1931年4月29日=3年6カ月20日

10秒6 1931年4月29日〜1931年5月30日=1カ月1日

10秒5 1931年5月30日〜1933年9月23日=2年3カ月24日

10秒4 1933年9月23日〜1935年6月9日=1年8カ月17日

10秒3 1935年6月9日〜1964年6月14日=29年0カ月5日

10秒1 1964年6月14日〜

※1975年から電動計時を公認。1984年に過去に遡及して公認。1993年から電動計時のみを日本記録として公認。


<電動計時>

10秒3台 1968年10月14日〜1988年9月11日=19年10カ月28日

10秒2台 1988年9月11日〜1993年10月26日=5年1カ月15日

10秒1台 1993年10月26日〜1997年7月2日=3年8カ月6日

10秒0台 1997年7月2日〜


 以上の通りで、0秒1(0秒10)単位の記録がどのくらいの期間続いたのかを示した。同じ「0秒1」を短縮するにもわずかの期間しか要しなかったこともあれば、世界記録では、手動計時時代の10秒2や、電動計時になってからの9秒9台は20年以上も続いた。また、日本記録では、手動計時の10秒3が29年、電動計時の10秒3台も20年近く続き、10秒0台も20年目に突入している。

男子100mの日本人世界記録保持者

五輪で日本人史上唯一ファイナルに残った吉岡隆徳さんは、当時の世界タイ記録となる10秒3を出していた
五輪で日本人史上唯一ファイナルに残った吉岡隆徳さんは、当時の世界タイ記録となる10秒3を出していた【写真:アフロ】

 手動計時の10秒3は吉岡隆徳(たかよし)さんが、1935年6月15日に明治神宮競技場(のちの国立競技場)で行われたフィリピンとの対抗戦で走ったもので、当時の世界タイ記録でもあった。


 吉岡さんは、1932年ロサンゼルス五輪で6位に入賞している。五輪のみならず、1983年から行われるようになった世界選手権も含めた世界大会の100mで入賞した唯一の日本人。また男子100mの世界記録保持者となった日本人も吉岡さんしかいない。「暁の超特急」と謳われた。


 今回の日本選手権によって8月のロンドン世界選手権の日本代表が決まるが、誰が代表になったとしても、ロンドンでは吉岡さんに続く85年ぶりの世界大会ファイナリストになってもらいたいところだ。