ラーム、バイエルンでの栄光の15年に別れ 「自分に何ができるのか」考え続けた日々

マイク・ロスナー

記憶に残る感動的な1日

ブンデスリーガ最終節、バイエルンのフィリップ・ラーム(21)はプロ選手としてのキャリアにも終止符を打った 【写真:ロイター/アフロ】

 2017年5月20日、ブンデスリーガ最終節。バイエルン・ミュンヘンの2016−17シーズン最後の一戦は、非常に感動的な1日として記憶されることになった。

 バイエルンがフライブルクをホームに迎えた一戦、後半42分にピッチを去る男がいた。それと同時に、自身のプロ選手としてのキャリアにも終止符を打った。フィリップ・ラームは観客に手を振り、投げキッスを残してピッチを去った。

 引退の瞬間はラーム自身、そしてドイツ最多のリーグ優勝回数を誇るバイエルンでジュニア時代も含めて22年間にわたって彼を見守ってきた人々にとって、深く心に染み入る出来事となった(03年〜5年はシュツットガルトに期限付き移籍)。この日が人々の心を揺さぶったのは、ラームという男のこれまでの歩みがあってこそだった。

 自身のキャリア最後の瞬間、この33歳の右サイドバック(SB)は自分のことに考えの焦点を当ててはいなかった。ラームの頭にあったのは、自分がこれまで与えられてきたものに対して、何をお返しできるだろうか、ということだ。この瞬間だけでなく、生まれ故郷のチームであるドイツの盟主バイエルンの一員となってからの22年間、常に考え続けてきたことであった。

ラームへの敬意がスタジアムに渦巻く

バイエルンは5連覇を達成。だがラームは「これ以上のものを期待していた」とコメント 【写真:ロイター/アフロ】

 スタジアムに渦巻くラームへの敬意は、途方もなく大きなものだった。特にその思いが濃密だったのが、バイエルンのサポーターが陣取ったエリアだった。彼らのキャプテンのために用意した横断幕には、こう記されていた。

「わが街の子どもから、わがクラブのレジェンドへ」

 だが、ラームが発する彼らへの敬意の方が、さらに大きなものだった。自身の全キャリアを通じて示されてきた支援に対する途方もない感謝の気持ちは、スタンドにいる人々への高潔な様子に、それが表れていた。

 のちに、ラームはこう語った。「ピッチ上に立ち続けることこそが、僕の人生だった。力を合わせるあの気分を、懐かしく思い出すことだろう」。さらに続けて、こう話した。「でも、これからやってくる時間を、僕は楽しみにしているんだ」と。

 これでキャリアが終わるわけではない。この数カ月、ラームはそう願い続けてきた。だが、チャンピオンズリーグ(CL)の舞台では、ラームと彼のチームメートはレアル・マドリー相手の準々決勝で冒険を終えた。DFBポカール(ドイツカップ)では、準決勝でライバルのボルシア・ドルトムントに敗れている。

 それまで4シーズン連続でタイトルを獲得していたブンデスリーガでの優勝は期待されてしかるべきもので、実際、バイエルンは5連覇を達成した。「悪くないシーズンだった。でも明らかに、僕らはこれ以上のものを期待していた」。ラームの言葉も、当然のことだろう。

メディアに溢れる元監督や同僚たちからの賛辞

昨シーズンまでバイエルンを指揮したグアルディオラ(左)は「これまで指導した中で、最も知的な選手」とラームを評する 【写真:アフロ】

 彼の15年間のプロ生活で、共に時間を過ごしてきたすべての仲間たちにとって、ラームの最後のシーズンは彩りに欠けるものではあった。だが、ラームの成功に満ちたキャリアを振り返る時、その最後の1年間がその輝きを失わせることなどあり得ない。敗戦することも、タイトルを逃すこともあったが、ラームのキャリアの中心には、サッカー界で勝ち取ってきた数々のビッグタイトルがある。

 彼の獲得したタイトルのリストは、驚くべきものだ。14年にはドイツ代表で世界王者になり、その前年にはCLを制している。13年はヨーロッパ・スーパーカップで勝利し、クラブワールドカップ(W杯)でも頂点に立った。ブンデスリーガでは9度の栄光に浴した。これはバイエルンの先輩であるオリバー・カーン、バスティアン・シュバインシュタイガー、メーメット・ショルに匹敵する記録だ。

 DFBポカールは7度制覇。こうしたタイトルはまばゆいが、それ以上に指揮官たちに強い印象を残す選手でもあった。「フィリップは、歴代最高のフットボーラーたちに連なる」。ドイツ代表監督ヨアヒム・レーブの言葉である。

 ラームの引退に際し、ドイツのメディアは元監督や同僚たちからの賛辞で溢れた。「ラームは世界最高の右SBであり続けてきた」。そう評したのは、バイエルンを12−13シーズンに3冠へと導いたユップ・ハインケスだ。前任監督の時代から続く連続先発が100試合に到達したのは、この頃だ。彼のタフさ、そして自身のケアを怠らないプロ意識を表す数字である。

 01年にバイエルンとともにCLを制したオットマー・ヒッツフェルトは、「おとぎ話のようだ」とラームのキャリアを称賛した。07−08シーズン、バイエルンでの2度目の監督就任時にはヒッツフェルトも成長曲線を描くラームに随分と助けられた。

 13年から16年までバイエルンを率いた現マンチェスター・シティ監督のジョゼップ・グアルディオラは、「これまで指導した中で、最も知的な選手」だと語った。カタルーニャの哲人のもと、ラームは守備的MFという新たな顔も披露した。

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著者プロフィール

1976年生まれ。2005年にドイツの通信社SIDで記者生活を始める。09年には南アフリカへと移り、10年W杯までフリーの記者としてドイツ国内各紙の通信員を務めた。W杯南アフリカ大会後はミュンヘンへと戻り、フリーランスとしてドイツの新聞へ記事を寄稿。主にサッカー全般とバイエルン・ミュンヘンを取材する

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