ラーム、バイエルンでの栄光の15年に別れ 「自分に何ができるのか」考え続けた日々

マイク・ロスナー

抑制の効いた、戦略的な側面も

10年のW杯本大会ではドイツ代表のキャプテンを託された 【Getty Images】

 同じ5月20日を現役最後の1日としたシャビ・アロンソにとっても、ラームは「これまで見てきた中で、最も戦術的に優れた選手の1人」であるという。ドイツで最も“強力”なタブロイド紙である『ビルト』でさえも、身長170センチの選手に「巨人」「過去最大級」と賛辞を惜しまなかった。

 こうしたメッセージに込められた最大限の賛辞のすべては、ラームがキャリアを通じて貫いてきた姿勢の賜物(たまもの)でもある。プライベートな状況においても、ラームの振る舞いは抑制の効いたもので、さらには戦略的なものでもあった。いかなる時でも、ラームが礼を失することはなく、友好的な態度に変わりはなかった。だが、これはメリットに目を向け続けた結果でもある。彼のキャリアにおけるすべてのステップは、非常によく“計算された”ものであるように見える。

 ラームがひとたび公の場で発言すると、その影響力はすさまじいものとなった。これは、ほんの一握りの人間だけが持つ力である。

 10年のW杯本大会では、負傷したミヒャエル・バラックに代わり、ドイツ代表のキャプテンを託されたが、バラックが復帰した後にはキャプテンマークを返上したいとの意思を、ラームは非常にはっきりと打ち出していた。ドイツ代表ではその後、ヨーロッパのチームとしての南米での初優勝を置き土産に引退するまで、チームの顔であり続けた。

 アフリカ初のW杯開催の1年前、ドイツで最も力を持つメディアの1つである『南ドイツ新聞』とのインタビューの中で、ラームはバイエルンのリーダーらの戦略を、非常に手厳しく批判。このような行動をラームが取るのは非常に珍しいことだった。

 ラームのこの力を十分に認識してか、バイエルン首脳のウリ・ヘーネスとカール=ハインツ・ルンメニゲは最近、引退後のラームに対し、クラブ役員会の一員というポジションをオファーした。ラームはこれを拒否したが、その理由は重要な決断を下す際に自身がまだ十分な発言力を持つことができないと感じられるからである、とも言われている。

背番号21の不在を感じるのは来シーズンか

背番号21の存在感を強く感じるのは、もしかしたら来シーズンになるかもしれない 【Getty Images】

 背番号21の存在感を強く感じるのは、もしかしたら来シーズンになるかもしれない。選手として、そして1人の人間として、まず間違いをしないラームという男の不在を、バイエルンは強く感じることになるだろう。

 チームは新しいサイクルに入ろうとしている。ラームとシャビ・アロンソの引退は、その第一歩である。

 右ウィンガーのアリエン・ロッベンは、ラームと同じ33歳だ。ピッチの反対側に立つ左ウイングのフランク・リベリーは、1歳年長の34歳である。この両ウインガーは、17−18シーズン限りでユニホームを脱ぐかもしれない。この2人の引退が何を意味するか、バイエルンはよく理解している。サッカー界で有数のビッグクラブという地位を保つために、バイエルンはチームを作り直さなければならないのだ。

 ラームが顔となってきた世代は、すぐにキャリアの終了に直面する。だがラームは恐らく、バイエルンの未来を築く役割を担うことになるだろう。ヘーネスとルンメニゲは、来月にもラームとの新たな会合の場を持ちたいと考えている。ラームの戦略的な物事の考え方は、現役時代のピッチ上での働きのように、クラブを助けることになり得ると考えているからだ。

 いったい、自分に何ができるのか――。ピッチを離れた今も、ラームは自問自答を続けているに違いない。バイエルンを取り巻く人々の笑顔のために。

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著者プロフィール

1976年生まれ。2005年にドイツの通信社SIDで記者生活を始める。09年には南アフリカへと移り、10年W杯までフリーの記者としてドイツ国内各紙の通信員を務めた。W杯南アフリカ大会後はミュンヘンへと戻り、フリーランスとしてドイツの新聞へ記事を寄稿。主にサッカー全般とバイエルン・ミュンヘンを取材する

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