伊達公子、復帰戦で見せた「錆びない力」 思い出の場からの再スタート
期待と不安の復帰戦
1年4カ月ぶりの公式戦はストレートで敗戦。しかし、随所で「駆け引きの能力」が光った 【写真は共同】
46才の年齢に、2度までメスを入れた左膝と1年4カ月の公式戦ブランク……普通に考えれば、彼女が今このコートに立っていること自体が、奇跡である。しかも対戦相手の朱琳(中国)は、現在23才で136位の伸び盛りの選手だ。
客席から立ち上る、果たして最後まで試合ができるのかという不安と、伊達公子ならまた奇跡を見せてくれるのではという微かな期待……それら種々の思いが交錯するコート上で、伊達は試合開始直後に、いきなり相手ゲームをブレークしてみせる。バックのスライスを巧みに用いて相手のリズムを崩し、主導権を手元に手繰り寄せる戦術眼は健在。特にこのゲームの最後に決めた鮮やかなボレーは、9年前に奈良を驚嘆させた「駆け引きの能力」が、少しも錆(さ)びついていないことを証明する一撃だった。
しかし、拭いきれぬ膝への不安と1年以上実戦から離れたことによる試合感の欠如が、少しずつミスを誘発していく。5度のデュースの末に奪ったブレークや、伝家の宝刀たる鋭いリターンウイナーを度々決めるなど見せ場を作った注目の復帰戦は、結果的には2−6、2−6で終幕した。
復帰戦は敗戦「勝負に勝てる可能性は感じられた」
試合後に、伊達は率直に振り返る。
「膝の状態を思えば、テニスのクオリティーを上げるところまで練習ではこられなかった」と自分を説き伏せるように口にするも、試合になれば「欲は出てくるし、もどかしさも感じた」と言って笑みを広げた。
「もどかしさを感じるのは、そこまでやれているということ。良い選手を相手に試合には負けたけれど、勝負に勝てる可能性は感じられた」
試合前の独特の緊張感に、コート上で覚えたもどかしさや葛藤……久々の実戦の風が与えてくれた全ての感情を、彼女は喜びと捉えているようだった。
9年前、その後も長く続く挑戦の道の鳥羽口に立ち、開ける前途をその目に映した伊達公子は、9年後に同じコートで、再び希望の光を見いだしていた。
「やっと、スタートラインに立てたかな……と」
まだ終わらぬチャレンジの、新たな章が幕を開けた。