【ボクシング】新旧対決はジョシュアが壮絶な打撃戦制す 新スター誕生で世界ヘビー級は夜明けの時

杉浦大介

9万人の観衆を集めたジョシュアvs.クリチコのビッグマッチは壮絶な打撃戦となった 【Getty Images】

 世界ヘビー級新時代の到来を告げる大激闘――。

 現地時間4月29日(日本時間30日)、ロンドンのウェンブリースタジアムで行われたプロボクシングのWBA、IBF世界ヘビー級タイトルマッチ、アンソニー・ジョシュア(イギリス)対ウラディミール・クリチコ(ウクライナ)戦をそう呼んでも大げさではなかっただろう。

 伝統のスタジアムに9万人のファンを集めた正真正銘のビッグイベント。米国人ファイターが絡んでいないにも関わらず、新旧対決は米国内でも大きな話題を呼んだ。最近では珍しくなった全世界レベルのメジャーファイトは、実際に戦前の期待通り、いや期待以上の壮絶な打撃戦となった。

年間最高ラウンドにもなりそうな5回の攻防

先にダウンを奪ったジョシュアだが、クリチコも反撃する姿勢を見せた 【Getty Images】

 最初にチャンスをつかんだのは王者だった。第5ラウンドにジョシュアが左フック、右オーバーハンドで畳み込むとクリチコは崩れるようにダウン。ここまで18戦全勝(18KO)で突っ走ってきたロンドン五輪金メダリストが、あっさりと勝負を決めてしまうかと思えた。ところが27歳の王者は意外にも打ち疲れの兆候を見せ、ラウンド終盤はクリチコが反撃する。両選手がダメージを受けたこの5回は、2017年の年間最高ラウンド候補になるだろう。

 続く第6ラウンド、今度はクリチコの右ストレートがヒットし、ジョシュアはプロ生活初の痛烈なダウンを喫する。もともとタフネスの不安が指摘された英国人は明らかなダメージを感じさせ、しかもスタミナ切れ。主導権は完全にクリチコに移り、ジョシュアはストップ負け寸前に見えた。この時点では、破竹の勢いだったジョシュアの連勝記録はやはりマッチメークの産物で、やや過大評価されていたと感じたファンも多かったに違いない。

 ただ……基本的に安全圏でないと手を出さない41歳の元王者はここでも手数不足だった。振り返ってみれば、この中盤の絶好機に勝負をかけず、若いジョシュアに回復の時間を与えたことが後に響いていくことになる。

ジョシュアのラッシュでドラマチックな結末に

劇的な結末は11ラウンドに訪れた 【Getty Images】

「すごいボクサーでも、時に気迫を示さなければいけないことがある。苦境に陥ったとき、真の姿がさらされる。このスポーツでは、隠れる場所はないんだ」

 試合後にそう語った通り、ジョシュアは第7、8ラウンドはポイントこそ失ったものの、必死にダメージ回復に努めた。サイドへの動きにトラッシュトークまで駆使し、何とかサバイブ。手足にエネルギーが戻ってくるのを確認すると、終盤ラウンドには再びクリチコを追い詰めていく。

 第9ラウンドあたりから左右パンチとボディ打ちで反撃すると、ジョシュアは10ラウンドに右ストレートをきっかけにスパート。ヘビー級の歴史に残るKO劇がここから始まった。

 11回も残り約1分50秒で豪快な右アッパーを決めてクリチコをふらつかせると、ジョシュアは左右の連打で通算2度目のダウンを奪う。ふらふらになった元王者に、右から左フックで強烈なダウンを追加。その後にジョシュアが追い打ちをかける姿を見て、レフェリーがとうとう激闘をストップした。

 その瞬間、米国内で試合を生中継した『Showtime』のアナウンサーが「マンマミア!」と絶叫。そんな興奮も理解できるほど、爽快なほどに激しく、あまりにもドラマチックなフィニッシュだった。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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