【ボクシング】新旧対決はジョシュアが壮絶な打撃戦制す 新スター誕生で世界ヘビー級は夜明けの時

杉浦大介

「ルイス対タイソン」級のタイトルマッチ

クリチコはいつもながらの謙虚な姿勢も見せたが、悔しさもにじませた 【Getty Images】

「やり遂げられなかったことは本当に悲しい。(勝利に向けて)プランを立てたが、上手くいかなかった。ジョシュアをリスペクトしなければならない。おめでとう。そして、9万人(の観衆)に愛とリスペクトを。君たちは最高だ」

 試合後、いつもながら謙虚に相手を称賛したクリチコだったが、その口調からは隠しきれない悔しさが感じられた。

 しかし、恥じる必要はまったくない。キャリア69戦目(64勝(53KO)5敗)の大ベテランが最高級のコンディションを作ってきたおかげで、ハイレベルの見事なタイトル戦になった。老雄が若き王者のポテンシャルを引き出した一戦は、今年の年間最高試合有力候補になるはずだ。

「米国内のマーケットにおいて、この試合はレノックス・ルイス(イギリス)対マイク・タイソン(米国)、ルイス対ビタリィ・クリチコ(ウクライナ)戦以来では最大のヘビー級タイトルマッチになる」

 ジョシュア対クリチコ戦の前、『Showtime』の重役スティーブン・エスピノーザはそう述べていた。日常的に誇張が溢れ返るのがボクシング界だが、エスピノーザの今回のコメントは必ずしも大げさとは思えなかった。それほど前評判の高かった一戦が、ボクシングマニアだけでなく、一般のスポーツファンもエキサイトさせるファイトになったことの意味は大きい。

 米国内では、今戦はジョシュアと独占契約を結ぶ『Showtime』が夕方に生中継し、夜11時からクリチコと関係の深いHBOが録画放送するという異例の2局中継になった。内容が評判を呼んだこともあって、2番組を合わせてかなりの数の視聴者を集めるだろう。“現役ボクサーの中では世界的スーパースターに最も近い位置にいる存在”と呼ばれてきたジョシュアは、いよいよクロスオーバー(全国区)のスターに躍り出るのかもしれない。

ヘビー級の新しい黄金期を感じさせた興奮

国際色豊かなヘビー級戦線の中でジョシュアというスター性を持つ選手が出てきたことで、新たな黄金期を迎えるかもしれない 【Getty Images】

 時を同じくして、現在のヘビー級には少なからずの魅力的なタレントがひしめき始めている。WBC王者デオンテイ・ワイルダー(米国/38戦全勝(37KO))、前WBA暫定王者ルイス・オルティス(キューバ/27勝(23KO)2無効試合)、WBO王者ジョセフ・パーカー(ニュージーランド/22戦全勝(18KO))、元統一王者タイソン・フューリー(イギリス/26戦全勝(18KO))……etc。

 このように国際色豊かな無敗のエリートファイターたちの中でも、最大のスター性を誇ると目されたのがジョシュアだった。そして、最新のクリチコ戦ではこれまでにない試練にさらされながら、ジョシュアは心身のスタミナ、適応能力を証明して見せた。

 このイギリス人王者がこれから無敗ライバルたちと連戦していけば、勝ち残ったものは米国でもタイソン、イベンダー・ホリフィールド(米国)以来のビッグネームになる可能性は十分。世界ヘビー級は夜明けの時を迎えた。新しい黄金期を迎える途上にいる。ジョシュア対クリチコの壮絶な打撃戦に興奮したファンは、誰もがそんなうれしい予感とポテンシャルを感じたはずである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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