1年の最後の月はいつもよりイベントが少なかったが、オクタゴンで見られたアクションの質に関しては、何ら影響はなかった。

２つのイベントの27試合の中で、フィニッシュが決まった試合は16試合。絶対的な勝利が2つ（それぞれに大きく異なっている）あり、これからのお休みの期間で取り上げるべき話題が豊富に生まれている。みんながテーブルを囲み、今年のUFCについて振り返るときに、取り上げたくなるようなパフォーマンスが。


素晴らしい1年だった。しかし、いざ2025年へと向かう前に、今年最後の月間レポートを確認しよう。12月のオクタゴンで見られた傑出したパフォーマンスは以下の通り。

ブレイクアウト・パフォーマンス：ホアキン・バックリー
2024年の最終戦については、その結末がそれまでの内容に対する評価を曇らせることのないようにしてほしい。確かに、第3ラウンド終了間際にレフェリーストップとなったことで、ややあっけない印象を与えたが、そこに至るまでの約15分間にホアキン・バックリーが見せたパフォーマンスは間違いなく圧巻だった。今年4勝目を飾ったその試合内容は、輝かしいものだったと言える。

ウェルター級で躍進する30歳のバックリーは試合開始直後から、スピードと打撃の優位性を存分に活かしてコルビー・コビントンを攻め立てた。序盤の数回にわたるテイクダウンを見事に防ぎ切ったことで、バックリーの身体能力が総じて勝っている点が際立ち、3度のタイトル挑戦経験を持つコビントンにとって簡単な試合ではないことが明確になった。

コビントンは何度かバックリーをテイクダウンすることに成功したものの、“ニュー・マンサ”の異名を持つバックリーはダメージを最小限に抑え、すぐに立ち上がる粘り強さを見せた。スタンドの展開ではバックリーが終始優勢で、“カオス”ことコビントンに出血を伴う傷を負わせ、主導権をにぎる方法を見つけられない状態に追い込んだ。そして第3ラウンド終盤、リングサイドのドクターが試合を止めた。

バックリーはすでに素晴らしい2024年シーズンを送っており、3戦全勝の成績でこの試合に臨んだ。ウェルター級転向後は5連勝を記録し、ビンセンテ・ルーケと“ワンダーボーイ”ことスティーブン・トンプソンをテクニカルノックアウトで下している。今回の試合はバックリーにとって初めてのメインイベントで、名高い実力者を相手にした1戦だったが、その中でもバックリーはほとんどの場面で見事なパフォーマンスを披露した。

中には、今年のバックリーの勝利にケチをつける人もいるかもしれない。バックリーは確かに勝ったが、ルーケやトンプソン、コビントンの年齢やランキングも考慮すべき、という声も挙がるだろう。とはいえ、この3人全員がランキング入りしている選手であり、全員がバックリーに敗れたという事実は揺るがない。さらに、バックリーほど彼ら3人をオクタゴンで圧倒的に打ち負かした選手はほとんどいない。それどころか、3人全員を下した選手は他にいない。

シャフカト・ラフモノフとイアン・マシャド・ギャリーがウェルター級で今後数年間タイトル戦線の常連となることを示した翌週、バックリーもタンパベイで2025年のタイトル争いに名を加えるべき存在として強烈な印象を残した。

特別賞：チェイス・フーパー、ジョシュア・ヴァン、マネル・ケイプ

サブミッション・オブ・ザ・マンス：朝倉海を落としたアレシャンドレ・パントージャ（UFC 310）

UFC 310に先立って大きな注目の的となっていたのが、フライ級王者のアレシャンドレ・パントージャと日本のチャレンジャー、朝倉海によるメインイベントだった。話題の中心にあったのは、ニューカマーの朝倉が現王者にどれほどの脅威を与えられるか、そして、朝倉が日本人ファイター初のUFCチャンピオンになれるかだ。

いったん試合が始まれば、パントージャはその一切を許さなかった。

チャンピオンはオクタゴンを駆け抜け、最初から朝倉にしかけていった。ためらうことなく拳の打ち合いに突入すると、この世には絶対的な力というものが存在することを挑戦者に示す。朝倉も何度か当てたものの、パントージャはパンチを受け流し、チャレンジャーの最高の攻撃をかわしつつ、攻勢に転じていった。

第2ラウンドでもブラジル出身の王者が優勢の形であり、やがて朝倉の背中に飛びついてカンバスに引き倒す。腕をあごの下から首に回すと、チャレンジャーはリアネイキドチョークによって意識を失った。

今年は圧勝で決まったタイトル戦がたくさんあった。その中でも、パントージャがUFC 310で見せたパフォーマンスは上位にランクインするだろう。この星で最強のフライ級王者が誰なのかを疑問の余地がないほど明確にしたパントージャは、この階級のトップにいることについて、一部の者から懐疑的な目を向けられるファイターから、長きにわたって王座を守るであろうチャンピオンに、一夜にして変貌（へんぼう）している。

特別賞：チェイス・フーパー vs. クレイ・グイダ、マイケル・キエーザ vs. マックス・グリフィン、ビセンテ・ルーケ vs. テンバ・ゴリンボ

ノックアウト・オブ・ザ・マンス：ビリー・クアランティロを仕留めたカブ・スワンソン
タンパに組まれたオクタゴンの中央。横たわるクアランティロを前に立つスワンソンの姿は、しばらくは人々の心から消えることがないだろう。これが“キラー・カブ”と呼ばれたスワンソンの最後のバトルになるとしたら、なおさらそうだ。

感傷的になってしまう部分があるのは否めない。スワンソンは長年にわたって完ぺきなプロフェッショナルであり、その言葉を求めればいつでも見事なインタビューになるようなファイターで、すぐに応援したくなるような、その成功を見たくなるような存在であり続けたのだから。

一方で、スワンソンはミサイルのような右腕でクアランティロを捉え、終始盛り上がっていた試合を一瞬で終わらせている。だから、これでいいのかもしれない。

最初の2ラウンドの様子を見るに、この試合はUFC 206でのスワンソンとチェ・ドゥホの一戦と並び、UFC殿堂の試合部門に迎えられるように思われた。もしくは、実際にそうなったように、ファンに愛される2人のアクション満載のファイターのいずれかが倒れる形でしか、勝敗は決しないように思われた。 “ビリーＱ”ことクアランティロが反撃し、第2ラウンドで優勢になった後、スワンソンは左フックで牽制しつつ右腕の攻撃機会を狙い、リズムを作り出して力強い打撃を繰り出し、一瞬で試合を終わらせている。

スワンソンがそんな戦いを見せ、そんなフィニッシュを決めて見せたことには、意味があるのかもしれない。本人はグローブを置くかについて明確な意思を示していないものの、これ以上記憶に残る“夕日の彼方へ歩みだす瞬間”はないだろう。

特別賞：ケネディ・ンゼチュク vs. ルーカス・ブジェスキー、ブライス・ミッチェル vs. クロン・グレイシー、マイケル・ジョンソン vs. オットマン・アザイター、ヨエル・アルバレス vs. ドラッカー・クロース、ダスティン・ジャコビー vs. ビトー・ペトリーノ

ファイト・オブ・ザ・マンス：アルジャメイン・スターリングを退けたモフサル・イヴロイエフ（UFC 310）

こういった賞のウイナーを決める際には、常に好みの要素が入ってくるものだ。しかし、ファイト・オブ・ザ・マンス以上にその傾向が顕著になることは稀だろう、

2024年の最終盤に行われたタンパでのイベントには、この栄誉に値する見事な接戦が2試合あった。最終的に、UFC 310で繰り広げられたモフサル・イヴロイエフとアルジャメイン・スターリングのグラップリング祭りがここで選ばれたのは、見事な殴り合いと同じくらい、2人のエリートグラップラーが15分にわたって“攻撃とカウンター、調整と再調整”に取り組む様子が魅力的であり、それを見る機会がなかなかないことにある。この一戦にかかっているものは大きく、そのことがこの試合をより貴重で、魅力的なものにしていたと言える。

この試合については、ソーシャルメディア上で「グラップリングがおもしろくないと思っている人に見せるべき試合」とよく言われていた。その考えにはこれ以上ないくらい同意だ。この試合は、スキルの高い2人のファイターがマット上で相手を上回ろうとする一戦であり、わずかなミスが勝敗を決するような、アクション満載の魅惑的な戦いだった。イヴロイエフとスターリングのいずれも攻撃の手を緩めることがなく、コントロールポジションで安定した状態になることもなかった。そんなことができないくらい、相手が優勢を取り返すことに集中していたからだ。

イヴロイエフはスコアカード全体では29対28、第2ラウンドと第3ラウンドのすべてをとって、通算19勝0敗とした。この勝利によってイヴロイエフはフェザー級の激しいタイトル争いの一角に名乗りを挙げている。有効打は少なかったものの、その少ない中で優れた仕事をしたイヴロイエフは、アクティブな状態を保ち、短い打撃を重ねて相手を苦しめる。この試合の後半にあったクリティカルなやり取りの中で、イヴロイエフはそうした打撃によって、元バンタム級王者のわずかに先を行き続けた。

2人の戦士が15分にわたって激戦を繰り広げ、重い打撃を浴びせて、お互い傷つき、ぐらつかせる例なら、2025年の最初の四半期にも見られるだろう。しかし、これだけ魅力的でヘビーなグラップリング戦が見られるまでには、もう少しかかりそうだ。

特別賞：エイドリアン・ヤネスに勝利したダニエル・マルコス、ビリー・クアランティロを破ったカブ・スワンソン