欧州で躍動するアヤックスの金の卵たち 魅力的なサッカーにオランダ中が歓喜
ヨーロッパでのベスト8進出は14年ぶり
ELでベスト8に進出したアヤックスは若手が躍動している 【VI-Images via Getty Images】
最近、小野伸二のフェイエノールト時代を振り返ったドキュメンタリー番組が放映された。そこでは隠れた名場面として準々決勝第2レグのPSV戦で、PK戦のキッカーを務めた小野がボールをリフティングしながらペナルティースポットに向かい、当時のベルト・ファン・マルワイク監督やエースストライカーのピエール・ファン・ホーイドンクの度肝を抜いたことが回想された。
04−05シーズンは、超攻撃サッカーでオランダのサッカーファンを魅了したAZがUEFAカップの準決勝でスポルティング・リスボン相手にあと一歩のところ(2戦合計4−4ながらアウェーゴールの差)で決勝進出を逃してしまったが、名勝負として今も人々の記憶に残っている。
ユトレヒトが10−11シーズンのELで大健闘したのも記憶に新しい。セルティックとのプレーオフの第1レグを敵地で0−2と落としたユトレヒトは、ホームの第2レグを4−0で大逆転勝ちしてグループリーグに進んだ。強豪リバプール、ナポリと同じグループに入ったユトレヒトに勝ち目はなかったが、5引き分けという善戦をみせ、中でもナポリと3−3で引き分けた試合は、オランダ人の心を打った。
そして今、アヤックスがオランダサッカーファンの記憶に残りそうなシーズンを、ヨーロッパの舞台で演じている。今季のアヤックスはチャンピオンズリーグ(CL)プレーオフで当たったロストフ(ロシア)にアウェーで1−4と敗れる失態をおかしたものの、その後進んだELでは攻撃サッカーでパナシナイコス(ギリシャ)、スタンダール(ベルギー)、セルタ(スペイン)、レギア・ワルシャワ(ポーランド)、コペンハーゲン(デンマーク)を倒して準々決勝進出を果たしたのだ。この間、6勝3分け1敗という戦績も立派だが、何より試合コンテンツが優れており、ボールをポゼッションし、縦に早く攻撃を仕掛け、ボールを失うとハイプレスですぐに回収するサッカーを大いに披露していた。
アヤックスがヨーロッパの舞台でベスト8進出を果たしたのは、02−03シーズンのCL以来、実に14年ぶりということもあって、コペンハーゲンに勝った直後のアムステルダム・アレーナは、選手とファンの喜び具合が半端ではなかった。もしかすると日本人にとっては「CLとELを同列に扱って“14年ぶり”と表現するのはおかしいのではないか」と疑問に思う向きもあるかもしれないが、それがオランダでの“ムード”である。
近年のアヤックスは「凋落の象徴」
近年のアヤックスは欧州で勝てず、「オランダサッカー凋落の象徴」となっていた 【写真:ロイター/アフロ】
『フットボール・インターナショナル』誌の記者で、戦術に強いと評判のタコ・ファン・デン・フェルデ氏はある日のオランダリーグの試合後、「他国が進化している一方、オランダのサッカーは昔のまま進んでおらず古臭い。だいたいブルガリアは、(16年6月のキリンカップで)日本に2−7で敗れた国だろ!?(苦笑)。恥ずかしい」と嘆いていた。
私は「でも、ペーター・ボス率いる今季のアヤックスは、これまでのオランダのチームより縦に早く、素晴らしいサッカーをELで魅せているではないか」と尋ねるとファン・デン・フェルデ氏はこう答えた。
「ラウンド16で戦ったコペンハーゲンのメンバーは、アヤックスよりかなり劣っていたから、あまり参考にならない」
「ならば、EL準々決勝のシャルケ戦が、今季のアヤックスにとって本当のテストケースですね?」と私。
「そう、シャルケ戦はアヤックスにとってテストケースだ」
ファン・デン・フェルデ氏の言葉にはオランダ人のちょっとした本心が現れていた。彼は確かに「コペンハーゲンより、アヤックスの個々の選手は遥かに優れている」と認めたのだ。
ELにおける近年のアヤックスは、12−13シーズンはステアウア・ブカレスト(ベスト32)、13−14シーズンはザルツブルク(ベスト32)、14−15シーズンはドニプロ(ベスト16)と従来なら格下の相手に敗れ、15−16シーズンはグループリーグ敗退という散々たる結果に終わっている。いわば、近年のアヤックスは「オランダサッカー凋落の象徴」でもあっただけに、とても胸を張って「コペンハーゲンより優れた選手がそろっている」と言えそうもないのだが、実は今のアヤックスには金の卵がそろっている。