“パイオニア”SC軽井沢の挑戦 男子カーリング、20年ぶり五輪出場へ
前回の世界選手権4位(日本男子最高)以上、メダルという目標は達成できなかったが、選手たちは「より高い精度を求めて五輪に臨みたい」(スキップの両角友佑)、「五輪まで時間もない。ここからレベルアップできるものを見つけていく」(サードの清水徹郎)と、平昌五輪でのメダル奪取に意欲を見せている。
困難を一つ一つ克服してきたSC軽井沢クラブ
男子カーリングとして20年ぶりの五輪出場をつかんだSC軽井沢ク。右から両角友、清水、山口、両角公、平田 【写真は共同】
その困難を一つ一つ克服してきたのが、SC軽井沢クラブだった。現在のメンバーは、リード両角公佑(両角友佑の弟)、セカンド山口剛史、サード清水、スキップ両角友、そして新加入のリザーブ平田洸介の5人だ。英語もこなす国際派の両角公はスイープを強化。山口は元ラグビー選手の強いフィジカルと雄たけびでチームを盛り上げ、清水は狙いすました正確なショットで局面を打開する。司令塔の両角友がすべてにおいてチームを引っ張り、北見工大大学院卒の平田がデータ分析でも貢献した。
海外転戦で新しい流れを吸収
SC軽井沢クは世界を転戦し経験を重ねることで、アイスリーディングに磨きをかけてきた 【写真は共同】
バンクーバー五輪に出場した近江谷杏菜(現・北海道銀行フォルティウス)の父親でもあり、自身も長野五輪にセカンドとして出場した近江谷好幸さんはこう語る。
「多くの人々のサポートで本場のカナダやヨーロッパを含むワールドツアーに転戦できる状況を生み出したことがまず素晴らしい。世界の強豪チームと試合をすることでカーリングの作戦や新しい流れを吸収できたのが強くなった要因の一つだと思います」
世界のカーリングは盤面に石を多くためてリスクの大きい戦略を取らなければ勝利を得ることが難しくなっている。それを実戦を通じて肌で感じながら進化してきたのがSC軽井沢クラブだと言う。
海外転戦の効用の中でも、近江谷さんが注目するのが氷の状況と石の進み具合の関係を読むアイスリーディングを磨ける点だ。ここには極めて繊細な要素が含まれている。
「冷却機の動作の仕方から建物の形状などまで含めて、氷の状況に微妙な差が生まれてくるので、そこを早く読まなければいけません。世界のリンクごとのクセはさまざまで、そのデータも必ず研究しているはず。それを基に早くアイスリーディングしてパフォーマンスを高められるのが彼らだと思うんです」
最近の世界の情勢で気が付くのは「2年くらい前のシーズンから重めのアイスに変化している」ことだと話す。従来のよく滑る氷では、スイープで伸ばせる石の距離が例えば5メートルだとして、重ければそれが3メートルに減る。つまり、氷を重く設定するということには、スイープの効果を抑制するという意図が含まれることになる。
背景にはスイープを巡る状況の変化がある。数年前、氷の表面を解かすことによって石をより直進させるという従来の常識を覆し、一方向から跡を付けるほどにこすることで、むしろストーンを曲げる効果があることを示す動画がネット上に流れた。
それ以降、「曲がり過ぎるスイープ」は競技本来の醍醐味を削ぐとして物議を醸し、パッド素材の統一などのルール改正が行われた。この一連の動きに伴い、「従来のように2人目、3人目が石に対して遠い位置からスイープすることは効果が薄いという見解も生まれている」など、新たなスイープの考え方が活発に提出され、スイープの進化が続いている。そうした状況下での、投げ手のパフォーマンスをより重視した氷づくりだという訳だ。
こうした、「情報戦の時代」に対応するための一手が平田の招へいだったと、近江谷さんは見ている。
「大会では一投ごとのコース、石の回転方向、ショット率など細かなデータを収集し、個々の選手の弱点や氷との関連を分析することができる。彼は大学でデータ分析を研究していましたから、そういうことができる選手なんです。平昌五輪に向けて貴重な戦力になるはずです」
“情報分析官”を求めた姿勢を含め、これらパイオニア精神あふれるSC軽井沢クラブの挑戦こそが「20年ぶりの五輪出場」という結果を生んだ。男子カーリング界の「道を切り拓いた」という意義は大きい。