東レをVリーグ制覇に導いたサーブの強化 セッター藤井の成長、レシーブの安定感
天皇杯に続く2冠を達成
天皇杯に続きVリーグを制した東レ。小林監督(中央)は涙で言葉を詰まらせた 【坂本清】
決戦前日、東レアローズの渡辺俊介主将が言った。
「やっと、ここまでたどり着きました」
両チームとも明確なコンセプトのもと、高い技術力と戦術遂行力を発揮し、まさに手に汗握る、一進一退の攻防を繰り広げる。バレーボールの醍醐味(だいごみ)を存分に発揮したハイレベルな決勝戦に決着をつけたのは、東レのセッターの藤井直伸が「相手のブロックを見て、『使える』と思ったので、迷わずいつも通りに上げた」という、ミドルブロッカー富松崇彰のクイックだった。
東レは天皇杯に続く2冠を達成。チームを率いて5シーズン目でつかんだ優勝に、小林敦監督は「苦しい場面もあったので、よく頑張ったと思います」と涙で言葉を詰まらせた。
模索し続けたサーブの強化策
ビッグサーバーのジョルジェフ(左)と鈴木(18番)を起用するなど、東レはサーブを強化し続けた 【坂本清】
2012年の監督就任直後から小林監督は選手たちにサーブ力の強化を掲げ、「ミスしてもいいから、とにかく自分が打てる最高の強いサーブを打て」と言い続けた。ブロックやスパイクは常にチーム別の成績でも上位にいる東レだが、サーブはいつも7位か8位。サーブの強化は間違いなくチームにとってクリアすべき課題であり、そのために「ミスをリスクとせず攻めろ」と言えば、選手のプレッシャーも減ってサーブ力も向上するはずだと思っていた。
だが、誤算が生じたと小林監督は言う。
「当時の僕は、サーブ=メンタルだと思っていたんです。だからプレッシャーを取り除けばいいサーブが打てると勘違いしていた。ミスをしても『いいよ、どんどん攻めていこう』と言うばかりで、具体的なポイントを指示するわけじゃない。そのうち選手は『いいサーブが打てないし、ミスばかりでどうしよう』と逆にプレッシャーを抱えてしまった。完全に悪循環でした」
「サーブで攻める」を撤回し、「リスクを減らしてサーブは入れる」と12−13シーズンの途中でコンセプトを切り替えた。その結果チームは勝ち始め、優勝には届かなかったが3位でリーグを終えた。同様のコンセプトで臨んだ翌年も4位。やっぱりサーブは強化しなくてもそこそこは勝てる。そう思い始めた矢先の14−15シーズンは7位に沈む。
すべてを打ち壊す覚悟で臨んだ15−16シーズン、再び原点に立ち返り「サーブの強化」に取り組んだ。マケドニア代表でサーブ力の高いニコラ・ジョルジェフを獲得し、小林監督が「日本一のサーバー」と称する鈴木悠二をレギュラーに抜てき。それまではどちらかと言えば、相手のサーブを正確なサーブレシーブで返し、確実に得点するサイドアウト(相手チームがサーブ時の得点)型のチームだったが、ジョルジェフ、鈴木というビッグサーバーがポイントを重ねるブレイク(自チームがサーブ時に得点)型へ移行。レギュラーラウンド、ファイナル6を勝ち進み、ファイナル進出は目前だった。
ジャンプフローターの強化が実を結ぶ
米山がレセプションの軸となり、チームに抜群の安定感をもたらした 【坂本清】
サーブ力は上がったはずなのに、なぜ勝てないのか。データを見返し検証を重ねた結果、「サーブのいい選手を2人入れるだけで勝てるほど今のリーグは甘くない」という結論にたどり着く。チーム全体のサーブ力を高めるための一策として取り組んだのが、ジャンプフローターサーブの強化だった。
何度も挫折した課題を克服するために、科学的視野からの裏付けを選手に与えるべく、全日本男子チームでコーチも務めた崇城大の増村雅尚准教授を招へいした。スポーツバイオメカニクスや動作解析を専門とする増村氏の指導のもと、助走距離やスピード、打点の高さを選手ごとに分析して実践した。
たとえばミドルブロッカーの富松と李博は、長めの助走から打点を高く、レフト側から相手レフト側の長いコースに打つ。白帯スレスレのスピードボールは相手からすると取りづらく、富松が「最初は慣れた打ち方があったので戸惑ったけれど、取り組んできてよかった」と言うように、昨年までと比べると格段の進化を遂げ、決勝でも、李がレフト側から相手レフトの山田脩造を狙って打ったサーブがエースになるなど、成果は顕著に現れた。
2年連続でサーブレシーブ賞を受賞した豊田合成の古賀幸一郎を「サーブの精度も他とは全然違うし、全員が自信を持って打ってくる。間違いなく東レのサーブがリーグナンバーワン」とうならせるほどだった。
サーブ力が上がれば、同時にレセプション(サーブレシーブ)への意識も高まる。「崩そう」とサーブを打ってくるのだから、ピタリとセッターに返すのではなく、まずは上げる。米山裕太とリベロの井手智がレセプションの軸となり、「サーブ」と「レセプション」で抜群の安定感を発揮した。