東レをVリーグ制覇に導いたサーブの強化 セッター藤井の成長、レシーブの安定感

田中夕子

「本当に嫌なセッター」となった藤井の成長

多彩なトス回しを見せたセッター藤井の成長もチームにとって大きかった 【坂本清】

 加えて、Aパスからの攻撃にこだわらず、Bパスからでも多彩なトス回しを見せたセッター藤井の成長も大きい。もともとミドルからの攻撃を「セッターとしても自分にとっては生命線」と言うように、ミドルを使う回数は多い。それも「パスが返ればミドル」という安易なものではなく、「多少パスが離れても、使えるならミドルも使う」のが藤井の持ち味。豊田合成のミドルブロッカー、近裕崇はこう言う。

「アタックラインぐらいからクイックを通してくるセッターはいるけれど、藤井の場合はもっと離れた場所からでも使ってくる。だから、多少パスが乱れると他のセッターなら『ここに上げる』と絞れるのに、『藤井だったらミドルもあるかもしれない』と思ってブロックが遅れる。ミドルからしたら、本当に嫌なセッターです」

 ボールを取る位置が高く、ミドルへのクイックと同じように見せ、ライトへ素早く上げるトスも藤井の持ち味であるため、ブロックに跳ぶ側からすれば最後までどこに上げるのか分からない。ミドルと同じタイミングでオポジットのジョルジェフも攻撃に入ってくるため、ブロックを絞ることもできない。近が言う「本当に嫌なセッター」はこれ以上ない褒め言葉だ。

お互いの関係性を生かすトス

藤井は富松(1番)らミドルを生かしつつ、オポジットのジョルジェフも生かすトスワークを披露した 【坂本清】

 もちろん課題がないわけではない。ミドルの富松、李の速さを生かすためにトスもスピードを意識するあまり、低すぎて打ち切れなくなる場面があった。大事な勝負どころで得点する確率の高いオポジットではなく、ミドルを選択するもタイミングが合わず、相手にチャンスボールを献上することも昨シーズンまでは幾度か見られた。

 だが、今季は違う。昨シーズンのファイナル3で敗れたことや、昨年末の天皇杯を制したこと――。さまざまな経験が藤井にセッターとして厚みを加えるきっかけになった。

「周りからはミドルを使うと思われているから、そこにこだわるのではなくて、利用する。ミドルも使えばニコ(ジョルジェフ)も生きるし、ニコが生きればミドルも生きる。お互いの関係性を生かすのが、自分のセッターとしての軸だと思うんです」

 打たせるのではなく、互いを生かすためにはスピードを意識しながらも、打点を生かせるよう高さも出す。相手のブロックを見ながら勝負どころはジョルジェフに託しつつ、決勝の豊田合成のようにラリー中に相手ブロックが中央に寄りながら、サイドを警戒していると見れば「最低でも1枚しか来ないだろうと分析していた」と確信を持って、鈴木のバックアタックを使う。

 初の大舞台に「初日は緊張してトスが短くなってアタッカーに迷惑をかけた」と笑う25歳の司令塔を、小林監督は「3年目の正直で非常に成長して、優勝を勝ち取ってくれた」とたたえた。

頂上決戦から日本代表も学ぶべき

東レの優勝で幕を閉じた頂上決戦からは、日本代表も学ぶべき要素が大いにあるはずだ 【坂本清】

 長い年月をかけて取り組んできたサーブ強化が実り、頂点に立った東レ。そして準優勝ではあったが、完成された守備力を武器に3年連続でトップ3に入る強さを見せた豊田合成。どちらも明確なコンセプトと、それを遂行するための技術を伴い、見応えのある試合に会場からは割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。

 勝つために何をすべきかを明確にし、やるべきことをやり遂げる。だからこそ、バレーボールは面白い。Vリーグに限らず、これから世界へと挑む日本代表も、頂上決戦から学ぶべき要素が大いにあるはずだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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