抜群のチーム力でVリーグを制したNEC 苦しい状況を救ったリザーブの選手たち

田中夕子

昨シーズンの悔しい思いを糧に、6度目の優勝を果たす

NECが14−15シーズン以来となる6度目の優勝を果たした 【坂本清】

 V・プレミアリーグ女子ファイナルステージは2日連続のフルセットを迎えていた。

 8−5とNECレッドロケッツが3点をリードして迎えた最終セット。古賀紗理那のレフトからのスパイクを久光製薬スプリングスがつなぎ、再びNECコートに返ってきたチャンスボールを、近江あかりがふわっとした、やや高めの山なりの軌道でセッターの山口かなめにパス。そのわずかな間を使って、アタッカー陣が一斉に助走へ入り、山口はライトのエミリヤ・ニコロバへトスを送る。ニコロバが高い打点から放ったスパイクが決まり、9−5。点差は4点に広がった。

 一見すれば、リードを得たNECが勢いに乗って得点を重ねただけのように見えるが、これこそがまさに、シーズンを通してこだわり抜いてきたNECの形だと近江は言う。

「(2セットを先取した後の)4セット目は、『このセットを取ったら終わりや』と思ってしまい、気持ちもプレーも急いでいました。だから5セット目はもう1回、落ち着いてゼロにしようと。セッターを助けるには間がないと難しい。ラリー中、パスを高くすると相手も余裕ができるけれど、自分たちにも余裕ができる。センターも機動力も生かせます。そうなれば絶対に強いと思って、ずっとやってきました。センターを使えるパスを出そうということだけを心掛けていました」

 2014−15シーズン以来となる6度目の優勝を果たしたNEC。山田晃豊監督は2年前のリーグ制覇は「追う立場だったので、無我夢中になってやったことが結果に結びついた優勝だった」と振り返る。

 その優勝が偶然の産物ではないと証明するためには、一度勝つだけでなく、勝ち続けなければならない。

 しかし連覇を狙った昨シーズンはオフェンス力の強化を第一に掲げて臨むも、完成と呼ぶには遠かった。結果もわずか1ポイント届かず、ファイナル6で敗退。その経験を糧に、今季はより一層の強化に努めた。

多くのチームの「真逆」を追求

絶対的な大黒柱がいないNECが攻撃力を高めるためには、数的優位の状況をつくることが大事になってくる 【坂本清】

 オフェンス力の向上は変わらぬテーマではあったが、取り組むべき課題をより具体的にし、特に重視したのがサイドアウト(相手チームがサーブ)時の攻撃だけでなく、チャンスボールからの攻撃で確実に得点を取って、ブレイク(自チームがサーブ時に得点)すること。そのために最も重視してきたのが、1本目のパスを高く返して間をつくることと、攻撃参加の意識を高めることだった。

 相手の攻撃を切り返した際や、チャンスボールからの攻撃時も、相手のブロックが完成する前に攻撃を仕掛けようと1本目のパスをやや直線的な軌道で突くように返すチームも少なくない中、NECはその「真逆」を追求した。

 それもただ単に高く上げるのではなく、セッターがボールの下に入りやすい位置で、なおかつ余分な回転は加えず、次につなげやすい質のボールを上げる。パスを出してからセッターがトスを上げるまでの間にアタッカー陣はしっかり助走を取って、両サイドとミドル、さらにバックアタックも含めた4枚攻撃を仕掛ける。

 トスを上げれば決まるという絶対的な大黒柱がいないNECが攻撃力を高めるためには、相手のブロックをスピードの速いトスで振るのではなく、相手のブロック枚数よりも多くの攻撃を同時に展開し、数的優位の状況をつくることだ。夏場の鍛錬期から、徹底して1本目のパスから連動させる攻撃の流れを構築すべく、厳しい練習を重ねてきた。

 取り組んできた成果を発揮する最初の機会となった、9月のアジアクラブ選手権では山口が「自分たちが思っていた以上に、思い通りの攻撃が展開できた」と言うように、タイや中国などタイプの違う相手を圧倒。中国チームとの決勝を制し、初出場でアジア制覇を成し遂げた。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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