酒井高徳がキャプテンに選ばれた理由 HSVが取り戻した勢いと「落ち着き」

酒井に託されている重要な役目

酒井をキャプテンに据えたHSVは上昇気流に乗りつつある 【写真:アフロ】

 酒井高徳をキャプテンに据えたハンブルガーSV(以下、HSV)は、上昇気流に乗りつつある。ブンデスリーガの54年の歴史において初の日本人キャプテンとなった酒井には、重要な役目が託されている。リーグ創設時のオリジナルメンバーであるHSVに、クラブ史上初の2部降格をさせないことである。

 ファンの心の中には、今も黄金の歴史が生きている。栄光の歴史を持つクラブは残留争いなどではなく、ヨーロッパでの戦いを目指すべきなのだ。HSVにとって、マインツやアウクスブルクのようなチームがこの数年、自分たちより上のランクにいることは我慢ならないことである。HSVは、今もドイツ有数の名門クラブなのだ。

 HSVが降格できない理由は他にもある。

 他クラブと比べて、選手に支払っている年俸も割高なのだ。だからこそ、メルギム・マフライは、この冬の移籍期間にケルンから「ロートホーゼン」(HSVの愛称。赤いズボンの意)にやって来たのだ。マフライは今季のブンデスリーガ前半戦のベストのDFの1人であり、ケルンがヨーロッパでの戦いを夢見ることができる理由の1つであった。そのアルバニア代表DFがHSVへの移籍を選んだのは、より良い契約条件を提示されたからに他ならない。

新監督が就任後、パフォーマンスは上向きに

9月にマルクス・ギスドル監督が就任後、HSVのパフォーマンスは上向きになっている 【写真:アフロ】

 9月にマルクス・ギスドルが指揮官となってから、HSVのパフォーマンスと勢いは上向きになっている。確かに2月25日(現地時間)には、リーグ最多優勝記録を持つバイエルン・ミュンヘンに0−8という大敗を喫しはした。だが、すぐに勢いを取り戻した。

「新監督に就任した時、マルクス・ギスドルはチームを向上させるためには、どのネジをひねればいいのか頭をめぐらせていた。ウインターブレイクの前にも、いろいろと考えていることがあった」。そう話すのは、『ポッドキャスト』でHSVのニュースを届けるサシャ・レビガーだ。

「フィリップ・コスティッチとニコライ・ミュラーのポジションを入れ替えようとしたのだが、うまくいかなかった。また、ヨハン・ジュルーにはキャプテンは重荷であると見ていた。だから、ジュルーからキャプテンマークを外して、酒井に渡したんだ。酒井が勤勉な労働者であることは、すでに分かっていた。最後の最後まで、忠実に働き続けるからね」

 大変光栄なことだ。アームバンドを渡された後、酒井はそう話した。「今後、ピッチ上でキャプテンとしてHSVを引っ張っていくのは、僕にとって大変光栄なことです。僕に対して与えられたこの信頼に応えられるよう、すべての力を注ぎます。順位表でもっと良い位置に行けるよう、これからの試合でチームとして行動し、今は勝ち点を積み上げていくことが重要です」。実にキャプテンらしい言葉だった。

「僕の国では、僕がドイツ語を話せることは、あまり知られていないんです」。26歳の守備のオールラウンダーはそう言って笑うが、決してやかましく話をするような男ではない。ただし、ピッチ上では違う姿を見せる。情熱を持って戦う姿で、雄弁に語るのだ。ロッカールームでは自身の明確な意見を持ち、その思いを違えない。キャプテンになるということは、スピーカーになることではないのだと、酒井は『ヴェルト』紙でのインタビューで語っている。「僕はボスになりたいわけではないんです。チームを集中させたいだけです」

現地記者も称賛する酒井のプレーぶり

ボルシア・メンヘングラードバッハとの試合では「相手とのバトルに100パーセント勝っていた」と現地記者も酒井のプレーを絶賛 【Getty Images】

「酒井は自分のことを、試合終了の笛が鳴るまで言葉でチームの背中を押すような、典型的な古いタイプのキャプテンだとは考えていない」とレビガーは言う。

「だが、キャプテンマークを任されていることで、先頭を歩いていく責任があると考えている。キャプテンマークを巻き、右サイドバック(SB)ではなく守備的MFとしてプレーするようになってから、さらに攻撃のプレーに絡むようになり、アシストも決めている。しかも、適当に入れたクロスでアシストしたわけではない。1対1のバトルに勝って、得点者にボールをつなげたんだ。本当に力強いプレーだった」

 レビガーの称賛は止まらない。

「キャプテンという役割が、酒井を本当に覚醒させた。チームプレーヤーとしてのメンタリティーを失うことなく、その責任感とともに成長している。疲れた時には後ろに下がって、低い位置からチームメートたちをサポートしている。すごいやつだよ!」

「(第24節の)ボルシア・メンヘングラッドバッハとの対戦では、あらゆる相手とのバトルに100パーセント勝ったんだ! すごい数値だよ! 昨シーズンにチャンピオンズリーグ出場権を手に入れ、今はヨーロッパリーグにまわって、シャルケとラウンド16で対戦するボルシア相手の2−1の勝利で、鍵となったのは酒井だった。この勝ち点3は大きなもので、HSVは残留争いで、ひとまず大きく息をつくことができた。順位はまだ16位ではあるものの、勝ち点26と多くの中位クラブに並ぶところまで来たんだ」

「われわれのチームに新しい文化を導入したいし、そうする必要がある」。日本人選手をキャプテンに選んだ理由を、ギスドル監督はそう語った。

「チーム内に今すぐ、さらなる緊密さをもたらさなければいけないんだ。だからこそ、分別ある変化のプロセスと構築が必要だ。弾みとなりつつ、長く効果を持つようにね。高徳を新キャプテンにするという決断は、そうしたものの1つだった。

 われわれが必要としているあらゆるものを、高徳は表現している。彼は疲れを知らない労働者で、倒れるまでチームのためにピッチですべてを捧げる。高徳はオープンであり正直で、非常にコミュニケーションをよく取る。それに、100パーセントのプロフェッショナルな姿勢を備えている。他のあらゆる選手にとっての模範であり、だからこそ彼はキャプテンという大役を任せるのに最適な人物なんだ」

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著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

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