Jに求めたい「フェライン」のマインド 瀬田元吾、ドイツサッカー解体新書(6)

瀬田元吾

フェラインの会員になるメリットは?

年に1回行われているフォルトゥナの会員総会。大きなホールを貸し切って開催されている 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 フェラインがドイツ国内で公共性の高い組織であることは理解していただけたと思う。ではフェラインとは一体誰のものなのだろうか。その答えは非常に簡単で、会員のものである。本来フェラインの活動は原則会員が支払う会費によって運営される。ブンデスリーガに所属するフースバルフェラインに言及すると、それら会費の収入に加えて、試合の興行収入やスポンサーからの広告収入、放映権の分配金などが、フェラインの収益となるわけだ。

 ここで注意していただきたいのは、フェラインはJクラブが運営する「ファンクラブ」とは全く違うものであるということである。会員はあくまでもフェラインの一員であって、サービスを受ける「お客様」ではない。だから会員になることのメリットを問われても、クラブの一員になり、アイデンティティーを共有することができる、としか言いようがない。その代わり、会員は年に1回行われる会員総会で投票する1票の権利を与えられることになる。これは公平にすべての会員がフェラインの決定事項に関与できることを意味しており、会員の最大の特徴である。

 ちなみにドイツにもいわゆるファンクラブはたくさん存在する。例えば私が所属しているフォルトゥナ・デュッセルドルフにも100を超えるファンクラブが登録されている。彼らはフォルトゥナが規定している内容に沿って申請を出すことで、フォルトゥナ側から正式にその存在が認められることになるが、これはあくまでもファンが自分たちの意思で立ち上げたものだ。

アクティブ会員とパッシブ会員

 フェラインの会員について、厳密にはアクティブ会員とパッシブ会員が存在する。前者はフェラインの中で能動的に活動をしている会員を指すのに対し、後者は能動的な活動をしているわけではない会員のことを意味する。より具体的に説明すると、フォルトゥナには現在約2万2000人ほどの会員が存在するが、トップチームやアカデミーでプレーする選手や監督コーチ陣、またフロントスタッフなどはアクティブ会員に分類され、それ以外の方々がパッシブ会員に分類される。ただしこの2つの立場に上下関係はなく、同じフェラインに属する会員として存在していることになる。

 トップチームの選手もフェラインの会員なのだから、本来一般の会員とフラットな関係であることが望ましい。フォルトゥナではそういった分け隔たりのない会員同士の交流を積極的に行っている。新規で入会したパッシブ会員から抽選で選ばれた方々をイベントに招待し、そこへアクティブ会員である選手が参加して一緒に何かを楽しむことを心掛けている。選手たちもその意味をしっかりと理解して参加することで、選手であってもファンであっても、お互いが顔の見える存在、意見を交換できる立場でいられるよう努める。そうして、フォルトゥナという1つのアイデンティティーを共有できるようになるのだ。

 ちなみにフォルトゥナではさらに、定期的な会員フォーラムを行っている。フェラインの方針に対し、可能な限り多くの会員の声をくみ取れるような対話の場を提供しているのだ。これにより、たとえ自分がパッシブ会員であっても、その「フェライン=コミュニティー」に所属していると感じられる。その中でも公平な振る舞いができ、時に納得がいかないことがあれば意見することで、帰属意識は高まっていく。会員はフェラインのお客様ではなく、フェラインの一部なのである。そのようにして、自分の生活が「社会=コミュニティー=フェライン」の中にあると実感できることが、元々ある帰属意識をフェラインへの強いアイデンティティーへと育てる大きな要素になるのではないだろうか。

本当の意味での「自分のクラブ」に

フォルトゥナでは3カ月に1回のペースで会員フォーラムを開催している。フェライン側の役職者と一般会員がフラットな場でクラブ運営に関するディスカッションを行うことが目的 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 Jクラブが地域密着を目指す上で重要なことは、ビッグネームの選手を連れてきて、ファンを喜ばせることではないと私は考えている。そういったスター選手による一時的な観客数の増加よりも、その地域の方々に、本当の意味で自分のクラブだと思ってもらうことの方が重要だからである。

 このシンプルな答えが分かっているようで分かっていないクラブが、残念ながら日本にはまだまだ多いのではないだろうか。確かにお金を払って試合を観に来てくれる方々は、大切なお客様である。しかしお客様であると同時に、クラブを成長させていくためのサポートをしてもらう“サポーター”である必要がある。彼らの声を聞き、彼らとともに歩むことで、共通のアイデンティティーが生まれ、そしてそのコミュニティー(=クラブ)の結束が強まっていく。ドイツ人は地域愛が非常に強いが、そういった本質的な部分をクラブ側が理解し、サポーターと良い相互関係を築くことが、スタジアムを満員にすることにつながっている。

 地方は人口が少ない、というのも理由にはなり得ない。例えばブンデスリーガ2部クラブのザントハウゼンは、人口1万5000人弱の小さな町がホームタウンだが、年間平均観客数は6229人だ。正直、ドイツ中でもザントハウゼンでプレーする選手の名前を10人言える人はほとんどいないだろう。それだけ小さなクラブではあるが、この街では愛されている。実に人口の半分近くがスタジアムに足を運んでくれるのだから。

 まずはJクラブで働くスタッフや、プレーする選手たちの意識改革が必要だろう。そして、DAZNによるレボリューション元年である今こそ、そういった人材育成や取り組みに、時間と労力を費やしていく良い機会なのかもしれない。全国に広がるプロサッカークラブが、それぞれの地域で人々の生活を豊かにする。そんな存在になっていってほしい。そういう意味でもドイツの「フェライン」の在り方は、Jリーグ全体にとっても非常に参考になるマインドだと私は思う。

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著者プロフィール

1981年生まれ、東京出身。筑波大学蹴球部、群馬FCホリコシを経て2005年に渡独。ドイツではフォルトゥナ・デュッセルドルフのセカンドチームなどに所属し、アマチュアリーグでプレーしたのち、現役を引退。08年に同クラブのフロント入りし、日本デスクを立ち上げ、海外クラブの中で、広報やスポンサー営業、ホームタウン活動、スカウティング、強化、選手通訳など、さまざまなことに従事してきた。近年はドイツのプロクラブで働く「フロント界の欧州組」として、雑誌やTVを通じて情報発信を行っているほか、今年4月には中央大学の客員企業研究員にも就任している。著書に『「頑張るときはいつも今」ドイツ・ブンデスリーガ日本人フロントの挑戦』(双葉社)、『ドイツサッカーを観に行こう!ブンデスリーガxドイツ語』(三修社)。14年にドイツに設立したSETAS UG社(http://www.setags.jp/)を通じ、日独の架け橋になる活動も行っている。

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