日本ラグビー「9番」争いに挑む茂野 名前を覚えてもらえない時代からの飛躍

斉藤健仁

昨季はサンウルブズ、日本代表で活躍

素早い動きと長いパスが魅力のSH茂野 【斉藤健仁】

 2月18日、建設されたばかりのミクニワールドスタジアム北九州で、スーパーラグビー参入2年目を迎えるサンウルブズが、25日の開幕を前にトップリーグ選抜とプレシーズンマッチを行い、24対12で勝利した。本番前の大事な一戦で、「9番」を背負ったのは、スーパーラグビー5年目を迎える代表の要・田中史朗ではなく、昨年、サンウルブズで飛躍した26歳の茂野海人だった。

 昨年とは違い、今年のサンウルブズは、スコッド53名中、34名が日本代表経験者で、ほとんどの選手が日本代表資格を持つか、今後、日本代表になる意志を持った選手で構成されている。昨秋、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が就任し、日本代表強化の柱にサンウルブズを置いたことで、サンウルブズ=日本代表という理想的な形でシーズンを迎えようとしている。

 クイックタップ(相手反則の際に素早く仕掛ける)からの攻撃的な姿勢と長いパスが得意な茂野と言えば、サンウルブズだけでなく、昨年6月の日本代表でも活躍し、スコットランド戦で挙げたトライは、受賞こそならなかったが、昨年のワールドラグビーの「ベストトライ」にもノミネートされたほど。大阪府の岬ラグビースポーツ少年団で、兄・WTB洸気(NTTドコモ)の影響で小学校3年から競技を始め、江の川高校(現・石見智翠館)を経て、大東文化大学ではキャプテンも務めた。

 しかし、昨年11月、日本代表に茂野の姿はなかった。トップリーグ序盤、NECでのパフォーマンスの悪さが響いた。茂野は「普通に選考に漏れました。徐々にやっていくしかない」と悔しそうな表情を見せていた。

NZでは「タナカ」と呼ばれたことも……

15年からのNZ留学が飛躍のきっかけとなった 【斉藤健仁】

 茂野は2015年から16年にかけてラグビー漬けの生活を送り、上昇曲線を描いた。15年3月から、所属するNECの留学制度を利用し、ニュージーランド(NZ)のオークランドに留学。名門のポンソビークラブで、1軍(プレミア)の選手として活躍し、NZの国内プロリーグ、ITM杯のオークランド代表にも名を連ねた。

 日本がワールドカップに湧く中、ほとんど報道されることはなかったが、茂野はNZ国内でもレベルの高いオークランド代表として定位置を確保。試合に敗れたもののカンタベリー代表との決勝戦にも先発した。ITM杯の決勝は、田中もHO堀江翔太も経験できなかった、NZの選手も憧れる大舞台で、茂野は日本人として初の快挙を達成した。

 NZでは、日本人SHということで、名前を覚えてもらえず、「カイト」ではなく、「タナカ」と呼ばれたこともあったという。ただ体重は5kgほどサイズアップし、持ち前のプレーの質の高さで徐々に頭角を現した。「球さばきでもフィジカルでも日本とは違いましたね。またITM杯になると個人ではなく、組織でプレーするので面白かった。今後も自分が成長していく過程の中で、(日本代表に選ばれ)2019年ワールドカップ出場できるようになればいいですね」(茂野)

NECでもコンビを組む田村優から学ぶ

昨年のスコットランド戦で挙げたトライは、世界の「ベストトライ」にノミネートされた 【斉藤健仁】

 当初、参入1年目のサンウルブズのスコッドに名前がなかったが、初代HCであるマーク・ハメットは、「(ITMカップという)高いレベルでプレーしていたから」と、シーズン前には茂野を追加招集。NZ出身者の指揮官が、ITM杯で活躍していた日本人を呼ばない理由はなかった。そしてサンウルブズでスーパーラグビー11試合に出場したことが、前述のように昨年6月の日本代表での活躍、トライにもつながった。

 個人的には茂野の活躍はうれしかった。田中に続き、世界で戦えるポテンシャルと判断力を持った選手が出てきたと思った。本来であれば、昨年11月も茂野を呼び続けてほしかったが、本人はこう回顧する。「昨年、初めてトップで1年間プレーすることを経験して、(SO田村)優さんは、こういう経験しているんだなと思いました。そんな中でもパフォーマンスを出し続けた選手が(昨年11月の)日本代表でも出場していた」

 またサンウルブズ、日本代表だけでなくNECでもハーフ団を組む田村優の背中を見て、しっかりオフとオンを切り替えることの大事さを学んだ。「僕はオフできていない時もありました。抜くときは抜かないといけない」。そこで、トップリーグのオフは家でゆっくりとドラマを見るなどして過ごして気分転換にもあてた。その甲斐もあって、昨年度のトップリーグでは10月末から調子を取り戻し、昨年に続いて、サンウルブズに招集された。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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