青森山田高・黒田剛監督の指導哲学 優勝校のチーム作り、日本の育成への思い

平野貴也

雪国でも勝てるチーム作りがうまくいっている

グラウンドに雪が積もっているこの時期は、筋力トレーニングと、負荷のかかる雪中サッカーを繰り返して体を鍛えるという 【平野貴也】

 2016年度の高校サッカーの主役となったのは、雪国で鍛えられた青森山田高校だった。強豪校として注目を浴び、柴崎岳(テネリフェ)ら数多くのプロ選手を輩出しながら、選手権では無冠が続いていたが、今冬は高円宮杯U−18サッカーリーグのプレミアリーグチャンピオンシップを制覇し、全国高校選手権でも初優勝と輝かしい成績を残した。就任から苦節22年目で頂点にたどり着いた黒田剛監督は、どのような思い、考えでチームを育ててきたのか。まだ雪の積もる青森山田高校を訪れ、話を聞いた。(取材日:2017年2月9日)

――あらためまして、高校選手権の初優勝おめでとうございます。雪国から優勝校が出たことが大きく報じられていましたが、やはり、この時期はグラウンド一面に雪が積もっているのですね。

 ありがとうございます。今年は、雪は随分と少ないですよ。踏み固められる程度ですから。例年なら、ひざ下まで埋まる状況です。私が就任したばかりのころは、ゴールのクロスバーに座れるくらいに雪が積もっていたくらいですから、減ってきていますね。

 今の時期は、週1回オフのサイクルの中で、筋力トレーニングと、動きにくくて負荷のかかる雪中サッカーを繰り返し、体を鍛えるだけです。3月から遠征に出ますが、それまでに体を大きくします。サッカーはままならなくても、体つきで相手に差をつけた状態にしておくことが大事なので、今の時期にサボっていたら、大事件です(笑)。

 今季は中学、高校で3つの全国タイトルを取りました。雪国でも勝てるチーム作りがうまくいっている証拠だと思っています。Jクラブのない青森県の子どもたちに夢や希望を与えたいと思っていますし、全国に成功モデルとして発信して、地域の子どもから目標とされる、憧れるチームとして存在しなければいけないという一心で、コーチを含めてみんなで責任感を持ってやっています。

相手と同じ武器では勝負しない

青森山田高校の黒田剛監督に指導論や日本の育成全体について話を聞いた 【平野貴也】

――今年度のチームに関しては多く報じられていますので、もう少し枠を広げて、古い話も含めながら、指導論や日本の育成全体についてもお聞きしたいと思います。近年は全国的な強豪というイメージが確立されてきた印象ですが、以前は「ブラジル人留学生のいるチーム」と言われている時代がありましたよね。

 そうですね。入学してくる選手が少しずつ変わってきました。自分のチームを評価することはできませんけれど、選手権の全国大会に出続けていることや、大学進学率、プロ輩出率といったことから、全国の中学生に「自分を磨ける魅力のある場所」だと思ってもらえるようになって、来る選手のレベルや意識が変わってきたのだと思います。

 青森山田中学校を作ってサッカー部を強化し、県内の選手も育て、県外から来る生徒との相乗効果でチーム強化を図れるようになったことが、時間をかけて浸透してきた部分も影響していると思います。留学生頼みのままであったり、県外出身者しかいない状況であれば、今のようにはなっていないでしょうね。

――高円宮杯U−18サッカーリーグのプレミアリーグでは、高校勢で2チーム目となるチャンピオンシップ制覇を成し遂げました。11年にリーグが始まったころは残留争いが精いっぱいでしたが、対Jリーグユースにおいては、どのように差を埋めてきたのでしょうか?

 プレミアリーグの最初は、堅守速攻とリスタートを武器にJユースに対抗して、降格を免れて中位をキープしてきました。元々、Jユースは技術力があって上手な子が多いので、基本的に(ボールを保持することを重視しながら攻める)ポゼッションスタイルを得意としていますが、堅守速攻やリスタートには本腰を入れていないと感じました。

 メンタル面でも崩れるときには一気に崩れるチームが多く、残留争いをしている時も、相手はうまいけれど隙はあると思っていました。相手が重視していないところをわれわれが重視すれば良いわけです。そういうふうにアドバンテージを増やしていくことを目指しました。相手と同じ武器では勝負しない。でも、相手と同じ武器でも拮抗(きっこう)したい。そう思いながら、雑草でもエリートに勝てることを証明しようと頑張ってきました。

 ただ、選手権では相手が私たちをマークしてくるため、逆に相手の堅守速攻にやられてしまうということが続きました。そこで、昨年度と今年度は選手権で勝つために、失点しないサッカーを志向することは変えずに、攻撃面ではリスタートという切り札を持ちながら、パスをつないで相手を崩して点を取るというパターンにもトライしました。いろいろな形を志向していくことで、どのチームに対しても、どんなスタイルに対しても戦える自信になっていったと思います。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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