“ロングスロー職人”原山が起こした奇跡 青森山田のラッキーボーイが大仕事
後半アディショナルタイムに2点差を追いつく
青森山田が試合終了間際に追いついてPK戦勝ち。原山(左)がロングスローでチャンスを演出した 【Getty Images】
しかし、結果論からすると、桐光学園は「あのPKが決まってさえすれば……」と後悔することになる。80+2分、コーナーキックから途中出場の成田拳斗がゴールを奪うと青森山田の反撃ムードが高まって、80+5分には原山海里のライナー性のロングスローから、やはり途中出場の吉田開が執念のゴールを決め、土壇場で2−2の同点となった。
ベスト8進出を懸けたPK戦は、桐光学園の小川が外したのに対し、青森山田は全員が成功させて勝ち上がりを決めた。試合終了後、青森山田の黒田剛監督は「お前ら、よくやった。心の勝利だ」と選手たちを褒めたたえた。それから大勢の記者に囲まれた黒田監督は、「奇跡です」と語った。
“ロングスロー職人”の誕生秘話
「小学校4、5年生ぐらいの時、スローインが下手で、ファウルスローをよくとられていた。当時の監督に『ファウルスローするぐらいだったら、お前は練習に参加しなくていいから、ひたすらゴールの裏のネットに向かって投げていろ』と言われて、一日中練習に参加することなく投げ続けていた。その時ぐらいから、スローインを投げられるようになりました」(原山)
こうして、“ロングスロー職人”は誕生した。黒田監督からは「ロングスローを投げられないようだったら、メンバーから外すぞ」と言われているという。原山は「自分はこれしか武器がないんで。あとは声を出すこと。僕は本当にうまくないんで」とちょっと恐縮するように語った。貴重なゴールにつながるロングスローを投げ、PK戦の最後のキッカーも務めた原山は、青森山田のラッキーボーイ的な存在なのかもしれない。
桐光学園・鈴木監督が送った小川へのエール
試合中とPK戦で2度、PKを外した小川だが、大会屈指の素晴らしいストライカーであることは間違いない。桐光学園の鈴木勝大監督が、記者たちに語った小川へのエールは、厳しさと優しさと信頼に溢れていた。
「小川はまだまだ勝負強さに関してはプロの世界でやっていけるかどうか、クエスチョンな部分があると思います。彼の性格はプロの世界でやっていける可能性があります。ストライカー気質がありますから。自分がゴールを奪うんだ――という探究心は、この年代の他の選手よりも長けていると思う。PKを1つ決めないことが、世界に飛び出す扉を閉じてしまうこともあるかもしれませんし、昇格・降格、得点王に絡んでいく中で1つのゴールが人生を左右してしまう。それがプロの厳しい世界。次のステップは世界なので、そこの精度を上げていってもらいたい」
完璧なクロスを蹴って小川の2点目をアシストしたイサカ・ゼインには、桐光学園での自分の役割に対して、思うところがあった。
「小川がPKを外した時に思ったのが、『自分は小川に依存しすぎていたのかな』ということ。自分は『小川の下』と思っている部分があったけれど、本当は2大エースにならないといけなかった。大学へ行ったら、自分が一番勝利に貢献する選手になりたい」
ジュビロ磐田に加入する小川は、「開幕から試合に出て、監督、スタッフ、仲間に恩返ししたい」と誓っていた。
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