小学生に戦術を教えるべきか? スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(15)

木村浩嗣

「戦術は技術の育成を阻む」という意見があるが……

セビージャも冬は寒いのでロッカールームでストレッチ。試合前にも戦術の約束事を確認。ホワイトボードを出すと目が輝く、戦術練習を楽しみにしている子も多い 【木村浩嗣】

 年明けにサッカー番組『Foot!』(J SPORTS)に出演し、指導の話を少しした際に「日本では小学生レベルでは戦術を教えるべきでない、という意見がある」と出演者の方からうかがった。おおっ、そうだった。忘れていた。当たり前のように、このコラムでは戦術練習のことを書いてきたが、スペインでは当たり前でも、日本ではそうではないのかもしれない。このテーマは10年間ずっといろいろなところで言ってきたが、あらためて言おう。

 小学生に戦術は必要です!

 というか、小学生に戦術を教えてはいけない理由が分からないのだが、戦術禁止派の気持ちになって考えてみよう。

 禁止派の代表的な意見に「戦術は技術の育成を阻む」というのがある。相手ゴール前で1対2の状況を思い浮かべよう。戦術を教えなければ、子供はやみくもにドリブルで突っかける。で、最初は10回中10回失敗するが「ドンマイ、ドンマイ」と励ましていれば、1年後には15回に1回突破できるかもしれない。2人を抜いたとなるとすごい技術である。小学生時代はこの個人技が育てばいいではないか、というのが彼らの言い分だ。

 戦術を教えていれば子供はドリブルで突っかけず、味方を探しパスを出す。個人技が育たないではないか、と。確かにそうだ。1対2で突っかけるのは駄目だと教えているのだから。だが、その代わりに育つものがある。状況を判断する能力、周りの仲間を探す能力、仲間も戦術を教えられているからこそサポートに来ているはずだ。

 こういう戦術的な能力は育てなくていいのだろうか? そして、1対2では突っかけないが、1対1なら突っかけて良いのだ。1対1なら成功率は最初から50%、1年後には80%に上げられるだろう。1対1を抜ける力が付けば、個人技では十分ではないか。

戦術の殻を突き破って個性は生まれる

 今までの話をまとめると、「2人抜く個人技」vs.「1人抜く個人技」+「状況判断力」はどちらが重要か? ということになる。 

 私は後者だと思う。私が心配しているのは子供たちの足ではなく頭だ。小学生のうちに見る癖、考える癖、判断する癖を付けておかないと、中学生では遅い。「小学生は技術、中学生から戦術」というのではなく、「小学生から技術と戦術」。12歳まで「突っかけろ」と言われていた子が、13歳になると「周りを見ろ」と言われる。この不自然で機械的な切り替えが、子供の頭の中に混乱を招かない方がおかしい。以前のコラムで書いたサッカーインテリジェンスは育てなくていいのか? というのが禁止派への私の問いである。

 もう1つ、禁止派の代表的な意見に「個性が伸びない」というのがある。戦術とは集団で状況を打開する術であり、確かに1対2でドリブルで突っかけるような個は伸びない。だが、そんなサッカーインテリジェンスに欠けたプレーが本当に個性で、指導者はそれを伸ばして本当に良いのだろうか?

 それと、これは教育一般に言えることだが、教育とは平準化、平凡の強制であり中庸な人を育てることを目標としている。教育の目的が個性を伸ばすことなら教科書は不要だ。個性が育たない? 心配ご無用。本当の個性は平準化や平凡化を打ち破って出てくるもの。伸ばすべき強い個は強制なんかに負けません。

 サッカーで言えば、戦術の殻を突き破って個性は生まれる。うちのチームのガキは1対2でも行けると思ったら突っかけますよ。やれると思ったらやる。後で私に怒られてもやる。これこそ強い個である。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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