選手権を通じて際立った青森山田の決定力 プレミアでの積み重ねの先につかんだ栄冠

川端暁彦

「1本の形をしっかり狙う」青森山田のシュートの意識

5−0で前橋育英を下し、頂点に立った青森山田。大会を通じて高い決定力が際立った 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「やっと来た! ホントに来た! 入ってて良かった!」

 青森山田の2年生DF小山内慎一郎は瞬間、そんなことを思っていたと言う。

 第95回高校サッカー選手権大会。共に初優勝を狙う青森山田(青森)と前橋育英(群馬)の対戦となった決勝の結果は5−0と青森山田の圧勝だった。ただし、序盤から一方的にチャンスを作っていたのは前橋育英だった。冒頭のコメントは開始5分、小山内がゴールライン上で相手のシュートを防いだときを振り返ってのものである。

 GK廣末陸が飛び出したときは、小山内がゴールカバーに入る。これは青森山田の約束事だった。ただ、「陸さんが出て行って触れないことなんてほぼないんですよ」と小山内が笑うように、FC東京内定の守護神は抜群の安定感でボールを処理し続けてきた。それだけにシーズンを通じて常にゴールカバーに入ることを続けながら、小山内の処理したボールは「1回もなかった」と言う。

「自分がカバーに入る意味なんてあるのかな?」と思ったこともあったそうだが、それでも「いつか来るかもしれない」ボールにずっと備え続けてきた。その姿勢がシーズンのラストゲームに実るわけだから分からないものだとも言えるし、こうしたディテールの積み重ねこそが青森山田の強さの秘密であることを教えてくれるエピソードでもある。もし小山内がこの動きをサボって失点していたら、試合の行方はまったく分からなかったはずだ。

 それが終わってみれば、5−0の大差である。大会を通じて特筆すべきは何と言っても青森山田の決定力の高さだろう。この試合は8本のシュートで5点を奪っているが、これが「たまたま」でないことは大会を通じて35本のシュートで20点を奪い、決定率57.1%という驚嘆すべき数字を残していることからも明らかだ。

「百戦百打一瞬の心」というモットーを掲げる青森山田・黒田剛監督はシュート練習などを通じて「100本の内の1本と思うな。この1本で終わると思え」と強調してきたと言う。また「ボールを支配すると確率の低いシュートの“乱れ打ち”のようになってしまうことがよくあるけれど、そうではなくて1本の形をしっかり狙う」ことも要求してきた。「とりあえずシュート」という文化が深く根付き、シュートにいってさえすれば(明後日の方向に外れても)「ナイスシュー!」の声が掛かる、多くのチームの日常とはかけ離れた考え方だろう。 

プレミアリーグ開幕当初は“降格候補”だった

今季のプレミアリーグを制した青森山田だが、リーグが始まった当初は“降格候補”だった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 こうした青森山田が突き詰めていたディテールは、高円宮杯U−18プレミアリーグでの戦いと切っても切り離せないものがある。日本全国を東西に分けて行われる同リーグには高校サッカーの強豪校とJクラブのユースチームが同時に参加。一発勝負の高校選手権と異なり、年間を通じたホーム&アウェー方式のリーグ戦で勝敗を競っていく舞台だ。

 シビアにチームの総合力が問われるこの舞台が始まった2011年当初、青森山田は“降格候補”の常連だった。あるJクラブ関係者は初年度の青森山田の試合を観ながら「今年残れても、どうせすぐ落ちるよ」と酷評していたが、青森山田の当事者ですらこの段階ではその評価を認めざるを得なかったように思う。

 だが、黒田監督を筆頭とするチームスタッフは毎年の積み重ねの中でその年の反省点を次の年へとフィードバック。「セットプレーをもっと磨こう」「ゴール前の守備の細かい部分にもっとこだわろう」「カウンターで仕留める形を増やそう」「ボールを持って支配する時間帯を作らないといけない」「フィジカルトレーニングをもっと入れていこう」と少しずつチームの引き出しを増やし、個人のベースを上げていった。彼らには青森山田の中等部という“下部組織”もあり、そこへフィードバックできた意味も大きかった。

 そうした積み上げで降格候補から脱出し、昨季は勝ち点1の差で東日本ブロックの2位。そして今季は見事に初優勝を果たした。チームとしての地力を着実に付けての戴冠だっただけに、この選手権にもそのままつながる部分が少なからずあった。「プレミアリーグで勝つには、セットプレーで点が取れて、堅守速攻で戦えて、ポゼッション(ボール支配)もできるチームにならないといけない」(黒田監督)と言うように、複数の戦い方を試合状況や対戦相手に応じて使い分ける柔軟性を持ったチームに仕上げたことが最大の勝因となった。

 高校サッカーは過去3年の夏冬タイトル6つのうち実に5つをプレミアリーグのチームが制覇している(東福岡、市立船橋、青森山田)。勝敗は時の運もあれば勢いもあるが、地力を養うという点においてトップレベルのリーグで年間を通じて、もまれている効果は確実に表れるようになってきたとは言えそうだ。前橋育英にしてもプリンスリーグ関東という非常にレベルの高いリーグで切磋琢磨(せっさたくま)しているからこそ培われているものがあるわけで、日常のリーグ戦で得た成果を非日常の舞台と言える選手権にぶつけるという流れは、高校サッカー強豪校の新しい仕組みとして確立された感がある。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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