スペインはトップレベルを維持できるか? 代表も国内リーグも課題は山積み

独自のプレースタイルを確立したスペイン

10数年前を境に、スペイン代表のフットボールは変わった 【写真:ロイター/アフロ】

 ポルトガルで開催されたユーロ(欧州選手権)2004の少し前、アルゼンチン代表を率いて自国での1978年ワールドカップ(W杯)を制した名将セサル・ルイス・メノッティが言っていた。「スペイン代表が真の闘牛士になりたいのであれば、自分たちのフットボールについて考え直し、目指すプレーの方向性を定める必要がある」と。

 1964年のユーロ、1992年のバルセロナ五輪以外に優勝経験がなかったかつてのスペインは、“ラ・ロハ(=赤、現在の代表チームの愛称)”であり、“ラ・フリア(=激情。かつての代表チームの愛称)”であった。テクニックに優れた選手が多かったにもかかわらず、代表チームでは走り、汗をかき、戦うことを強いられたからだ。

 だが今から10数年前を境に、スペインのフットボールは変わった。ボールポゼッションをベースとしたきめ細かなゲームコントロール、ライバルのミスを待つのではなく、全ての試合で能動的に勝ちにいくメンタリティー。タレントに恵まれた世代を生かし、世界中から賞賛を浴びたバルセロナの理念を積極的に取り入れることで、万年「優勝候補」と言われてきたスペインは、人よりボールを走らせる独自のプレースタイルを確立するに至った。

 ルイス・アラゴネスが基礎を築き、ビセンテ・デルボスケが発展させたそのスタイルは今、ユーロ2016の後に就任したフレン・ロペテギへと受け継がれている。

リーグ戦の本来あるべき姿からは遠いリーガ

スペイン代表の当面の目標は18年のW杯ロシア大会予選で首位通過することだ 【Getty Images】

 果たしてスペイン代表は、トップの座に返り咲くことができるだろうか? 08年と12年のユーロ、10年のW杯を立て続けに制した勝者であり、何よりスペクタクルなフットボールをピッチ上で体現してきたスペインだが、少しずつ力を失い、14年のW杯ブラジル大会ではショッキングなグループリーグ敗退となった。他国に道を譲っている現状、トップに返り咲くのは簡単なことではないだろう。

 いずれにせよ、ロペテギにとって当面の目標は18年のW杯ロシア大会となる。昨年始まったヨーロッパ予選でプレーオフに回るのを避けるためには、10月に敵地で引き分けた伝統国イタリアとの首位争いを制する必要がある。

 スペインが抱える課題は代表チームだけではない。今季のリーガ・エスパニョーラは開幕当初こそ首位争いが混沌(こんとん)としていたものの、試合を重ね、シーズンの折り返しに近づくにつれ、例年通り2つのメガクラブがその他を引き離し始めた。現時点では3位のセビージャが首位争いに食らいついているものの、最終的には今季もチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグの出場権が唯一の目標となるはずだ。

 スペインのクラブはヨーロッパのコンペティションにおいてほぼ常に上位争いに加わってきた。だが資金力、プレーレベル共に飛び抜けたポテンシャルを持つレアル・マドリー、バルセロナとその他のクラブの差はあまりにも大きい。ヨーロッパのフットボール界をリードするスペインの2強を追うのはイングランドやドイツのビッグクラブで、スペインの第二勢力は実質的にそれらのクラブより一段下のレベルに位置している。

 資金力では2強にかなわないアトレティコ・マドリー(その他の17クラブと比べれば、財力に恵まれていることは付け加えておく)が国内外でタイトル争いに割って入るようになった近年の健闘は称賛すべきものだ。ただレアル・マドリーとバルセロナが経済的に成長し続けている現状、スペイン国内におけるクラブ間の戦力バランスが改善され、開かれたタイトル争いが見られるようになるまでには、長い歳月を要することだろう。それこそが、ドイツ・ブンデスリーガが着実に近づきつつあり、イングランド・プレミアリーグでも実現する可能性がある、リーグ戦の本来あるべき姿なのだ。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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