日独で異なる“ゼロキャリア”の環境整備 瀬田元吾、ドイツサッカー解体新書(4)

瀬田元吾

「学校」と「クラブ」の関係性

ドイツでは「タレントを発掘し、エリートに育てていく」ことを目標に育成改革が断行された 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 ドイツではブンデスリーガ(1部・2部)への参入条件としてリーガライセンスを取得する必要があり、その項目の1つに条件を満たしたユースアカデミーを保有することが義務付けられている。

 その条件には、アカデミーに所属する選手たちの教育面に関する項目も含まれており、クラブは選手が通うことのできる提携校を確保しなくてはならない。またその提携学校との間にスクールコーディネーターを置き、選手たちのトレーニングや試合に合わせて、授業カリキュラムなどをうまく編成するなどの調整を行っている。このコーディネーターは彼らが通う学校の教師と面談も行い、授業の進行状況や選手の成績についても管理。それは成績面だけでなく、学校になじめているか、困っていることはないかといった生活面も含めたケアにまで及ぶ。

 また、学校から出される宿題や課題をサポートする家庭教師もクラブ側が用意し、アフタースクールのサポートも怠らない。学校の授業を終えた選手たちは、クラブのシャトルバスでクラブのユースアカデミーへ移動し、そこで家庭教師のサポートを受けながらトレーニング開始までの時間を過ごす。クラブ側は勉学を子供たちの自主性に任せてしまうのではなく、しっかりと管理・サポートすることで、文武両道を実現できるよう気をつけているのだ。

“サッカー・エリート学校”の確立

 DFBはクラブが提携する学校のサポートをより充実させるため、06年からサッカー・エリート学校「die Eliteschulen des Fusballs」を設立した。これは、DFBが新しくエリートのための学校を開校したわけではなく、DFBの定める規定をクリアした既存の学校を活用したもの。既存の学校がユースアカデミーでプレーする子供たちのためにカリキュラムなどを柔軟に変更しながら、勉学もサッカー選手としての技術向上もフレキシブルに対応していくというものである。エリート教育を目指すうえで、彼らが勉学とサッカーの両方を最高・最良の環境で行えるよう環境を整えることが目標だ。

 エリート学校としての認定を受けるための項目は実に18に上る。大まかな流れとしては、クラブと学校が双方でDFBへコンタクトを取り、文化省の推薦をもって正式にエリート学校としての申請を行い、細かい審査の末に承認を受けることになる。なお、エリート学校としての認可を得た後は、3年ごとに再審査を受けることも義務付けられている。こうして現在は、全国で71の学校が認定を受けるまでになっており、ブンデスリーガ1部・2部に所属する全36クラブは、必ずどこかのエリート学校と提携しているのだ。

 またDFBは、年代別のドイツ代表チームが大会などへ出場する際にも、勉学のサポートを徹底している。今年5月に行われたU−17ヨーロッパ選手権(アゼルバイジャン)に出場したドイツU−17代表チームは、事前合宿も含めて約1カ月間、チームとして活動した。

 そこでDFBは選手たちの宿泊ホテル内に教室を用意し、1日のスケジュールに勉強の時間を確保した。選手たちはそれぞれが通うエリート学校からの課題を持ってキャンプインし、DFBも各エリート学校と連携を取り、選手個別の勉強の進行状況をしっかりと把握したうえで教科ごとの教師を帯同させ、個人授業またはグループ授業を行った。このような選手それぞれのトータルライフを考えたうえでのサポートは、選手たちの親御さんにとってもありがたいことであろう。

フォルトゥナ期待の若手アペルカンプ真大

フォルトゥナのU−17で中心的選手として活躍するアペルカンプ真大。文武両道が実現できていることを自身でも感じているようだ 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 私が所属するフォルトゥナ・デュッセルドルフは現在、DFBより認可を受けている2つの学校と提携しており、U−17所属のアペルカンプ真大(16歳)は、その1つのフルダ・パンコック総合学校に通っている。日本で生まれ育った日独ハーフのMFは、横浜のドイツ学校に通っていたため、語学の問題は全くない。1年半前に父の仕事の関係でドイツへ戻り、フォルトゥナに加入。早くからその能力は評価され、現在では育成契約選手としてクラブからも期待されている。

 アペルカンプは学校でも成績優秀で、スクールコーディネーターを務めるクリスチアン・ラッシュ氏も、その適応能力の高さに太鼓判を押している。彼はこの学校でしっかりと勉学に励みながら、一方で学校とクラブからのサポートを受け、U−17チームの中心選手としてプレーする日々を送っているのだ。「学校にはチームメートも通っていますし、放課後はクラブのシャトルバスで送迎もしてくれる。勉強の面でもサポートがあるし、コーディネーターがカリキュラムの調整もしてくれるのですごくありがたい」と、本人も文武両道が実現できていることを自覚している。

 こういったプロ選手になる前のタレントの環境を充実させ、どのような道へ歩む結果になっても多くの可能性を持たせてあげられるようにすることが、本来望まれるプロクラブのキャリア教育なのではないだろうか。日本でも徐々にJクラブが地元の学校と提携するケースが出てきている。しかし、まだまだ勉強は学校任せとなっているのが現状だと聞く。

 学校での教育とクラブでの技術向上の双方を効率的に高めていくためには、もっともっと双方の連携を取っていくことが求められるのかもしれない。いずれにしてもセカンドキャリアサポートは、プロになる前の“ゼロキャリア”の時点から、積極的に行っていくことが理想であろう。

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著者プロフィール

1981年生まれ、東京出身。筑波大学蹴球部、群馬FCホリコシを経て2005年に渡独。ドイツではフォルトゥナ・デュッセルドルフのセカンドチームなどに所属し、アマチュアリーグでプレーしたのち、現役を引退。08年に同クラブのフロント入りし、日本デスクを立ち上げ、海外クラブの中で、広報やスポンサー営業、ホームタウン活動、スカウティング、強化、選手通訳など、さまざまなことに従事してきた。近年はドイツのプロクラブで働く「フロント界の欧州組」として、雑誌やTVを通じて情報発信を行っているほか、今年4月には中央大学の客員企業研究員にも就任している。著書に『「頑張るときはいつも今」ドイツ・ブンデスリーガ日本人フロントの挑戦』(双葉社)、『ドイツサッカーを観に行こう!ブンデスリーガxドイツ語』(三修社)。14年にドイツに設立したSETAS UG社(http://www.setags.jp/)を通じ、日独の架け橋になる活動も行っている。

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