海外進出が引き起こす空洞化の懸念 その影響は有馬記念と年度代表馬選考にも

海外競馬馬券発売の余波

今年の競馬も有馬記念を含め、あと3開催日を残すのみとなった(写真は2015年有馬記念) 【写真:中原義史】

 2016年のJRAの競馬も、いよいよ今週末まで。3日間開催最終日の有馬記念でフィナーレを迎えます。

 JRA史上7人目、16年ぶりに誕生した女性騎手の話題が一般メディアにも取り上げられ、前年に比較しても見劣らないとされた3歳世代の激闘、更にその世代から米3冠に挑戦する馬が現れるなどして近年の海外志向にも拍車がかかり、ゆっくりではあるものの競馬人気の確かな回復ぶりが感じられる一年となりました。

 その中でも、やはり最も大きなトピックとなったのが、秋にスタートした“海外競馬の馬券発売”だったでしょう。

 現時点で凱旋門賞、メルボルンC、ブリーダーズCフィリー&メアターフ、そして香港国際競走(4鞍)が発売されましたが、その売上総計がざっと95億円。海外馬券の“初モノ”意識があったにせよ、他国の馬券がこれだけ売れたのは想定外でした。

 販売システムの変更、宣伝等の初期投資、主催国への保障なども含めて、経費がゼロなわけではないですが、自らが主催する際に求められる手間暇を思えば、このコスパは誰もが認めるところ。控除率の25%はほとんど純利益で安定した国庫納付金の拠出(可決されたカジノにはありません)にもつながり、どこからの批判もなし、です。

 となると当然、来年以降も海外競馬の馬券発売、追い風に乗って更にパワーアップすることは間違いありません。

 ところが、この“海外馬券”。発売自体はいいとして、そこから派生する不安材料もなくはありません。

 秋の東京競馬の掉尾を飾るジャパンCは、日本で初めて国際GIに認定されたレースですが、この日本最高賞金を誇るレースの意義が年々薄れてきています。外国馬の参戦が減少し続け、目玉になるような馬も、すっかり来日しなくなったのです。

 今年など、あれだけ盛り上がった凱旋門賞組から一頭も来なかった。マカヒキと彼の地で戦った馬が一頭でも居れば、凱旋門賞をより身近に感じられ、ジャパンCのレース自体をより楽しめたことでしょう。そういうことがあってこその国際交流のはずです。

共通ルールの欠如が空洞化をうながす?

 外国馬が来日しなくなった理由について、日本馬が強くなったから、とは近年しばしば目に、耳にします。それは確かにそうですけれど、本当にそれだけでしょうか?

 ちなみに今年のジャパンCは秋の天皇賞に出走しなかった組が上位を占め、秋天2着のリアルスティールが最先着の5着。他の天皇賞組はどうしたかと言えば、そう、香港国際競走に回ったわけです。

 しかもその中のモーリス、エイシンヒカリは香港カップをラストランに選びました。最も恐れるのがこのあたり。日本の競馬が質的にも興行面でも空洞化しかねない……。

 だからと言って“鎖国”するような時計の針を元に戻すマネもできません。無論、日本馬が海外で活躍する姿を見たい、という思いも強くありますし。

 これらのことは他のスポーツの有力選手が海外に流出することで生じる問題と似ています。しかし、それぞれの組織間にある共有認識や、ルールの在り方が違っています。

 代表的なところで、昔から言われているのが来日馬の検疫期間。5日間を千葉県白井の競馬学校か兵庫県の三木ホースランドパークで過ごし、その後に出走する競馬場への移動が義務付けられていますが、他国の多くは直接出走競馬場に入って検疫、そしてすぐにレースへ向けた調整が可能になっているようです。

 では仮に、競走馬に限って検疫方法を国際ルールに則ったとして、外国馬がかつてのように大挙して来日するかどうか。これについても不透明な部分はあるのですが、5日間とはいえ他国とは違う国内スタンダードを相手に強いて、立場が逆になった時はこちらが恩恵を得る、というのが現状の構図です。競走成績の差が顕著になればなるほど、不公平感が強まっても無理はありません。

 一方、外国馬陣営の事情を言うなら、例えば今年のジャパンC。決して空き巣だったとは言いませんが、日本馬の動向についてのリサーチが十分だったのかどうか。

 このあたり、相互の情報共有方法はどうなっているのか。何らかの手は打てないのか。つまりは現場レベルの“交流”の実情がどんなものなのか、という疑問も出てきます。

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著者プロフィール

中央競馬専門紙・競馬ブック編集部で内勤業務につくかたわら遊軍的に取材現場にも足を運ぶ。週刊競馬ブックを中心に、競馬ブックweb『週刊トレセン通信』、オフィシャルブログ『いろんな話もしよう』にてコラムを執筆中。

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