海外進出が引き起こす空洞化の懸念 その影響は有馬記念と年度代表馬選考にも
次の一手への模索
香港国際競走のように複数GIを開催すればいい……という単純な話でもなさそう(写真は2016年香港カップを制したモーリス) 【Getty Images】
「香港やドバイのようにGIを同じ日にいくつもやればいい」みたいな“成功例に真似ろ”式の単純な話ではないようです。
もともとJRAでは、来春の大阪杯のGI昇格を見てもわかる通り、GIを平均的に番組に配置する傾向があります。それによるGI乱発に厳しい意見もあるわけで、その問題を棚に上げて「同日に複数のGIを」の案が受け入れられるのかどうか。
また香港国際競走4レースの売上計約38億は凱旋門賞1レース(約42億)に及びませんでした。様々な要因が考えられますが、そのひとつに、同日複数GIの慌しさに慣れていないこと、そしてそれ以前に、中山阪神中京の3場同時開催中もあって、やや食傷気味になった可能性もあるかもしれません。国内のみで実施するにしても、GIを立て続けに行うことが、実のところ売上面ではどうなのか検証する必要があります。
複数GIでイベント色が強まれば、なるほど話題性が上がって集客につながる、という見方は理解できますが、逆に中身が伴わなかった場合の失望感、それによる見放され方というのは、想像を絶しませんか?
簡単かつ即効性のある解決策。そんなものは付け焼刃か、その場凌ぎである印象が否めないのです。
でも法律改正などが難しいとなると、手の打ちようはないのでしょうか。
ひとつのヒントが、日本馬が何十年も前から凱旋門賞に挑戦し続けてきた理由、にあるかもしれません。
極東の、競馬後進国の競馬人が、相手が強かろうと遠征に伴う困難があろうと、お構いなしに海を超えて挑戦し続けた理由。
それは古くから親しまれているヨーロッパ競馬の伝統と格式、そして本場の競馬に対する畏敬の念。そこにある純真な憧れ、ではないのか……。
もしそういったものが大きいのなら、競馬の一等国(?)になった今、ただ成長路線、拡大戦略に腐心するのではなく、こちらが畏怖され、尊敬を集めるような競馬先進国になればいい。その重要性を強く認識すれば、列強の日本に対する見方も変わり、よりよい関係性が築けるのではないか。そう個人的に考えるのですが(勿論、競馬の話)、即効性が求められる日本社会では、やっぱり単なる理想論、絵空事扱いされてしまいますか……。
年度代表馬の決め手になるものは?
その有馬と2歳GIを絡めた同日複数GI案も取り沙汰されていますが、それはそれ。まずは直近の有馬記念で起こりうる最大の問題点をひとつ挙げておきましょう。
キタサンブラックが有馬記念を勝てば今年GI・3勝、同じくGI・3勝モーリスとの年度代表馬争いはどうなる?(写真は2016年ジャパンカップ) 【写真:中原義史】
キタサンブラックが勝った場合、さて年度代表馬、どうなりますか。
天皇賞・春とジャパンCと有馬記念の3つのGIを、“香港のGI”と比較してどう扱うべきでしょうか?
有馬記念が年度代表馬の行方を左右するのは今年に限ったことではないですが、今年の場合は、先の項で触れたような海外から見た“日本”と“香港”の競馬の捉えられ方、にも関わりかねない案件。すぐにどうにかできることではない、というのはご理解いただけると思います。
しかしながら、JRAが海外競馬の馬券発売をスタートさせたことで、来年度以降、益々日本馬の海外遠征馬が増えることは容易に想像できる現在です。
だからこそ、すぐに真剣に考えて取り組む必要があると思いませんか?
今から入れ込んでも仕方がないのですが、今回ばかりはキタサンブラックに勝ってもらって、問題をより鮮明にクローズアップさせて欲しいような気持ちにちょっとだけなっています。