11人退場劇から考えるバスケ審判の課題 Bリーグの“成長痛”をどう克服する?

大島和人

こじれる事態は防げた

10月30日に船橋アリーナで起きた11人退場騒動。これによって1年目のBリーグが抱える課題が浮き彫りとなった 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 Bリーグが9月22日に開幕してから最悪のニュースを選ぶなら、10月30日に船橋アリーナで起こったトラブルだろう。試合中に千葉ジェッツのヒルトン・アームストロングがスクリーンプレーでアルバルク東京の菊地祥平の足を引っかけたことからもみ合いが起こり、味方をかばうべく入った選手たちも含めて計11名が失格・退場となった一件だ。

 このようなトラブルが起こったとき、外で控える選手がプレー中のコートに入れば「ファイティング」の反則を取られる。「ファイティング」と聞けば暴力行為を連想するが、今回はそうでなく、その場にいたこと自体が問われ、ファウルではなくより悪質な「ディスクオリファイング・ファウル」として失格・退場になった。

 ルールの適用としては間違っておらず、審判の対応も大筋では妥当だった。とはいえこの一件はいくつかの課題も残している。まず田中大貴(A東京)のコートへの進入を見逃す判定ミスが起こった。審判は直後に映像で確認したものの、直前までコート内にいたことなどから田中はプレー中という思い込みが生じていたことが理由だ。

 騒動の発端となったアームストロングと菊地の接触プレーも、審判から見えていなかった。バスケットボールは計3人の審判が分担し、コートとベンチに死角が生じないようなポジションを取ることが原則だ。しかしこのときは3人がA東京の速攻に合わせて反対側のコートへ動いてしまい、全審判が2人の接触を見逃していた。的確なフォーメーションを取れていれば対応も速やかなものとなり、大きくこじれる事態は防げた可能性が高い。

 もちろん選手がコートに入ってしまったこと自体に、退場の主因があることは間違いない。とはいえ船橋アリーナのトラブルは、審判のレベルアップという課題を浮かび上がらせた。

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現場の温度感をJBAに伝える必要性

Bリーグの増田匡彦・競技運営部長は「HCや選手が審判とコミュニケーションを取りづらい状況」と課題を口にした 【スポーツナビ】

 千葉やA東京の試合に限らず、審判に対するヘッドコーチ(HC)や選手からの苦言を耳にすることはまれではない。それは他競技でも起こる現象だが、 Bリーグの現場から感じ取れる審判へのストレスレベルは率直に言ってかなり高い。Bリーグの増田匡彦・競技運営部長はこう受け止める。

「HCや選手が、審判とコミュニケーションを取りづらい状況だと感じています」

 Bリーグの審判は日本バスケットボール協会(JBA)から派遣されている。担当はS級、A級の資格を持つ計82名。JBAの審判部が毎節ごとに割り当てを行い、各会場に派遣している。交通費や宿泊費、審判手当といった経費はBリーグの負担だ。

 判定問題に関する現場とリーグのコミュニケーションはやや複雑になる。試合中の会話も可能だが、その場で細かな疑問にきっちり回答することは不可能だろう。そこで各クラブは試合後に判定への抗議、質問を書面で提出する。

 Bリーグの競技運営部はJBAの審判部と内容を共有した上で相談も行い、回答を行っている。リーグ、JBAは文京区内の同じビルに同居しており、競技運営部と審判部のオフィスは隣合わせ。両者のやり取りは綿密で連携も取れているとのことだが、増田氏は「現場の温度感を協会側にしっかり伝えなければならない」との反省も口にする。

 審判とチーム側に不信感が芽生えてしまえば、普通のコミュニケーションが普通にできなくなる。したがってBリーグは速やかにその芽を断つ必要がある。増田氏はクラブ側の立場から、このような認識を示す。

「どういう割り当て基準があって、審判に対してどういう評価をしていて、(評価の低い審判に対して)どういうアプローチで改善を求めているかを見せることができていない。だから不信感がどんどん溜まって『何もやってないのではないか?』という話になってしまう」

「何もやっていない」という誤解を解くことは、今回JBAとBリーグがセンシティブな審判問題で取材に応じた一つの理由だろう。

 増田氏はこう続ける。「『こういうことをしているんだね』と分かれば、お互いの理解が深まっていくと思う。リーグとして(JBAの)審判部と、透明性を高くすることの必要性は千葉の件も含めて強く感じました」

審判からファンへの伝え方も課題

 審判を送り出す側になるJBAの阿部哲也・審判部長は、プロリーグに携わる審判の責任をこう説明する。

「何千人といるファンの方々にも分かりやすい、納得いくジャッジをすることがわれわれの仕事であり、トップリーグの責任だと思います」

 的確な判定と明快なアクションは大前提だが、千葉で起こったような大きいトラブルなら、審判が自らマイクを取って説明することも必要になる。「ファイティング」「ディスクオリファイング・ファウル」といった専門用語は競技経験者でない、ライトなファンに伝わらない表現だ。実際に船橋アリーナでは「日本語で言え!」というやじも飛んだと聞く。

 阿部氏も「今回はあまり無い状況で、本人たちが普段使っている用語なのでスッと出てきたけれど、置き換えて分かりやすい言葉で説明する工夫も大切」と認めるように、ファンへの伝え方は改善点だ。

 アリーナ内の伝達は審判だけの問題でない。すべての場面で試合を止め、審判がマイクを握るのは非現実的だ。阿部氏は視察に訪れた試合で、選手が看板を蹴り、テクニカルファウルを取られる場面を目撃し、こんなことをあらためて感じたという。

「観客の方が『分からない』とおっしゃっていて『なるほどそうだな』と思った。(アリーナ)MCの方に「何番(の選手)が看板を蹴ったのでテクニカルファウルです」と言ってもらえば、観客も納得することになる」

 3人いる審判の誰かがMCに説明しておけば、それは喋りのプロから会場内の全員に届く。MCも審判を助けるスタッフの一人だ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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