11人退場劇から考えるバスケ審判の課題 Bリーグの“成長痛”をどう克服する?

大島和人

同じようなミスを繰り返さないために

Bリーグ発足と同時に「レフェリーサポートシステム」が導入された 【スポーツナビ】

 Bリーグ発足と同時に、審判には心強い味方も加わった。それは「レフェリーサポートシステム」というウェブシステムだ。試合の動画にファウルなどのタグが付けられ、コミュニケーションボード(伝言板)に管理者がコメントを書きこむこともできる。これは判定のブレを解消し、均質性を保つための有用な材料だ。審判が週末に担当するチームの試合を確認し、特徴や傾向を知るツールにもなる。

 試合の完全な映像がサーバーにアップされるのは、通常で試合の2時間半後。そこからJBA審判部の上田篤拓アシスタントマネージャーを中心に、コメントも加えられていく。審判が仮にミスを起こしたとしても、映像とコメントで原因を知り、同じような状況でミスを繰り返さない助けとなる。

 英語に堪能な上田氏が、日本語と英語の両方で同じ内容を書き入れていることも一つの工夫だ。外国出身のHC、選手とのコミュニケーションを円滑にするため、英語のバスケ表現に触れる機会を増やす狙いがある。

 審判間の情報共有は、徐々に実を結んでいる。たとえば船橋アリーナで問題になったボールから離れた選手に対する位置取りの改善を、阿部氏は直近の試合で感じ取ったという。現時点でこれらの映像は審判、JBAとリーグの関係者といった狭い範囲でしか活用されていない。しかしBリーグとJBAは現在、クラブと情報共有の頻度を増やす検討を行っている。

プロ審判の採用、育成も必要な一手

審判の課題や期待を語ってくれたJBAの阿部哲也・審判部長 【スポーツナビ】

 審判育成が急務となっている理由は、Bリーグ発足と注目度上昇にとどまらない。国内のS級審判は55歳が定年だが高齢化が進んでおり、今後数年でトップリーグを吹ける審判が少なくなる見込みがあるという。

 Bリーグの増田氏が熱望するのはプロ審判の導入だ。「プロフェッショナルレフェリーはすぐ作るべきだと思います。特に若い審判で、そういう方が出てきてくれるとうれしい。審判部と話をしていますけれど、2020年(東京五輪)もあるので、そこで吹けるような方にはすぐプロフェッショナルレフェリーになってほしい」

 プロ野球の審判は全員がプロで、Jリーグも14名のプロフェッショナルレフェリーと契約している。韓国のプロバスケリーグも、ほとんどの審判がプロだ。それぞれの審判の人生設計もあるだろうが、プロ審判の採用はレベルアップに向けて必要な一手だろう。

 増田氏は審判のトレーニングについても、こんなアイデアを口にする。「土日の試合はコート上を走り回るので、体力を維持するためにもジムに行く必要もある。英語の勉強をする必要もある。そういったスキル向上のために補てんを出すという考えもあります」
 審判を指導するインストラクターの増員、制度化も急務だ。JBAには現在22名の審判インストラクターがおり、男女のトップリーグを裁く審判に対する指導と評価を行っている。しかしトップリーグ(B1)が18チームに増えた今季は、全試合に派遣できていない。

 レフェリーサポートシステムのような有用なツールが用意された一方で、Bリーグ開幕後の2カ月で課題も浮上してきた。もちろん制度が整い、審判のレベルが上がっても、他の競技と同様に判定を巡るトラブルが完全に消えることはないだろう。しかしBリーグとJBAの現状を見れば、審判の質を高めるためにまだ「できる」ことが多くある。

 阿部氏は船橋アリーナの一件をこう受け止める。

「経験はその次にどう改善していくのか、もっと良くするにはどうしたらいいかという検証材料になる。プラスに考えたいと思っています」

 そもそもレフェリングが問われる状況が生まれたことは、Bリーグ発足による熱の高まりを反映したものだ。増田氏はこう述べる。

「選手もBリーグになってお客さんに見せるプレー、アグレッシブなプレーが非常に増えた。そうすると熱を持ち始めて、冷静でなくなる時も出てくる。そういうシーンこそ審判の腕の見せどころだと思います」

 審判のレベルアップ、クラブとのコミュニケーションなど、解決するべき課題は山積している。日本バスケの発展から生じた『成長痛』である審判の問題をどう解消していくか――。それは難題だが、BリーグとJBAに正面から取り組む姿勢があることは今後への明るい兆しだ。

2/2ページ

著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント